注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「MIC 2μg/mlのメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症にバンコマイシン(VCM)は避けるべきか
MRSAは代表的な耐性菌の一つで、VCMはMRSA感染症の第一選択薬として広く受け入れられている。Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)1)とEuropean Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing(EUCAST)2)感受性判定基準では、VCMのMICが≦2μg/mlの場合を感受性(S)としている。 MICが2μg/mlの株に対して、その治療効果が芳しくないとの報告が多数存在する。1996年1月から2011年8月までの22の医学文献を用いて、MRSA感染症患者をMIC<1.5μg/mlと≧1.5μg/mlの群に分けて比較したメタ分析3)では、VCMのMIC≧1.5μg/mlは、感染源やMIC測定法に関わらず、MRSA感染症の30日間死亡率と有意に関連している(オッズ比[OR]=1.64、95%信頼区間[CI]=1.14–2.37、P<0.01)と報告された。さらに、このうちE testでMICを測定した8つの研究による分析では、MICが1.5μg/mlの場合は1μg/mlと比較して死亡率に有意差はなかった(OR=1.11、95% CI=84–1.45、P=5 .45)が、2μg/mlの場合は1.5μg/mlと比較して死亡率の増加に関連していた(OR=1.74、95% CI=1.34–2.21、P<0.01)。 一方で、2004年4月から2014年4月までの38の文献を用いて、MRSA感染症患者7232名をVCMの高MIC群(≧1.5μg/ml)2384名と低MIC群(<1.5μg/ml)4848名に分け、30日間死亡率を比較したメタ分析4)では、高MIC群で27.6%、低MIC群で27.4%と有意差は認めなかった(リスク差[RD]=1.6%、95% CI=−2.3%-5.5%、P=0.41)。 さらに、後者の結果を支持する研究が近年は増加している。 2008年1月1日から2013年6月1日の間に、初めて黄色ブドウ球菌菌血症(SAB)と診断された18歳以上の患者418人を対象とした前向きコホート研究5)では、MIC<2μg/ml(335名)とMIC=2μg/ml(83名)の両群の間に、30日または90日の死亡率で有意差は認めなかった(ハザード比[HR]=0.86、95% CI=0.41- 1.80、P=0.70またはHR=0.91、95% CI=0.49-1.69、P=0.77)。この結果は、MSSAとMRSAに分類したサブグループ解析でも異ならなかった。 直近の報告としては、2013年1月から2016年8月までの間にMRSA菌血症に対してVCMで72時間以上治療した18歳以上の患者166人の後ろ向きコホート研究がある6)。ここでも、MIC<2μg/ml(91名)とMIC=2μg/ml(75名)の両群間に30日間の院内死亡率の統計学的な有意差は認めなかった(13.2% vs 24%、P=0.072)。しかし、死亡率の数値自体は差があると考えられる点に留意する必要がある。また、副次評価項目である菌血症の持続期間に有意差はなかった(3.5日 vs 4日、P=0.679)。 以上より、MIC=2μg/mlの MRSA感染の患者におけるVCMの治療効果については、様々な意見があり、現段階で明確な結論はでていない。しかし、今回考察した2つのメタ分析はともに大規模なものであり、結論を導く一助となるに違いない。後者はMIC<1.5μg/mlと≧1.5μg/mlの群で比較して差がないとしているのに対し、前者はE testで1.5μg/mlと2μg/mlとを比較して死亡率に差を認めたと報告していることを考慮すると、MICが2μg/mlの場合にはVCMを避けたほうがよいのではないかと思われる。 ただし、現実的には、VCMのMICが上昇した場合に代替の抗菌薬が必要かどうかを考慮する際には、MICに焦点を当てるだけではなく、患者の臨床的な抗菌薬への反応性に基づいて判断するべきであると思う。
【参考文献】 1)Clinical and Laboratory Standards Institute. Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing. M100S 26th Edition. Wayne, Pennsylvania, 2016. 2)European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing. Breakpoint tables for interpretation of MICs and zone diameters. Version 6.0. Munich and Basel: European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases, 2016. 3)van Hal SJ, et al. The clinical significance of vancomycin minimum inhibitory concentration in Staphylococcus aureus infections: a systematic review and meta-analysis. Clin Infect Dis 2012; 54:755. 4)Kalil AC, et al. Association between vancomycin minimum inhibitory concentration and mortality among patients with Staphylococcus aureus bloodstream infections: a systematic review and meta-analysis. JAMA 2014; 312:1552. 5)Baxi SM, et al. Vancomycin MIC Does Not Predict 90-Day Mortality, Readmission, or Recurrence in a Prospective Cohort of Adults with Staphylococcus aureus Bacteremia. Antimicrobial Agents Chemotherapy 2016; 60:5276. 6)Adani S, et al. Impact of vancomycin MIC on clinical outcomes of patients with methicillin-resistant Staphylococcus aureus bacteremia treated with vancomycin at an institution with suppressed MIC reporting. Antimicrobial Agents Chemotherapy 2018; 62:e02512-17. 7)Takesue Y, et al. Clinical characteristics of vancomycin minimum inhibitory concentration of 2μg/ml methicillin- resistant Staphylococcus aureus strains isolated from patients with bacteremia. J Infect Chemotherapy 2011; 17: 52-7.
寸評:これも難しくかつ重要なテーマでした。結語はやはりかっこよかったです。
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