注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
『MSSAを起因菌とする人工弁IEに対して自然弁IEのレジメンを適応すると予後が悪化するか』
ブドウ球菌は、国内では感染性心内膜炎(IE)の原因として2番目に多く、院内死亡率は 20% 以上、人工弁置換術後感染性心内膜炎(PVE)では 47.5% とさらに高くなる(1など、急性の経過をたどって重症化しやすいため、手術と並行して抗菌薬治療を行うことが重要である。
米国心臓学会のガイドラインでは、メチシリン感受性ブドウ球菌(MSSA)を起因菌とする自然弁の感染性心内膜炎(NVE)の標準治療は、nafcillin/oxacillin又はcefazolinで、PVEの標準治療は、nafcillin又はoxacillin +gentamicin+ rifampicinの3剤併用である (2。現在国内ではNafcillin又はoxacillinの使用が出来ないため、替わりにcefazolinが用いられている(1。以前は、NVEの治療でも、cefazolin+gentamicinが標準治療とされていたが、NVE治療においてgentamicinを用いると腎毒性があることが判明したため(3、2015年にガイドラインが改定され非推奨となった。つまりNVEとPVEの治療において、β-lactam系抗菌薬を用いる点は共通しており、主たる違いはgentamicinやrifampicinの投与の有無である。そこで、腎毒性が起こると判明している薬剤の併用が、なぜ依然PVE治療では行われているのかといったことを疑問に感じ、テーマとした。
AHA、ESCガイドラインでは、共にPVEに対する多剤併用療法を推奨する根拠として、gentamicin、rifampicinのいずれについても実験モデルや人工物感染のデータに基づいており、推奨根拠としては低いと明記している(2,(4。
Drinkovićらは、1963 〜1999の間に、IEを原因とする弁置換術を受けた患者152 のうち、61人のPVE患者(MSSA 29人、CNS 32人)に対して、手術までの期間に継続的または最低3日間(部分的投与群)、単剤投与と多剤併用を行った群に分けてその治療成績について後ろ向き研究をおこなった(5。その結果、β-lactam/vancomycinの単剤投与群と、多剤併用群(1. β-lactam/vancomycin+gentamicin+rifampicinの継続的な3剤併用群, 2. β-lactam+amynoglycoside/ vancomycin+rifampicin の継続的な2剤併用群, 部分的多剤併用群)の手術検体の弁培養結果を比較したところ、単剤投与群では8/14例で培養陽性、多剤併用群では14/47例で培養陽性となり、治療期間などをロジスティック回帰分析で調整すると、多剤併用療法群の方が培養陰性になる確率が5.9倍と有意に高かった(95% CI 1.3–27.5; P = 0.024)。この論文の問題点としては、アウトカムが手術検体の培養陰性化率であり生命予後の改善効果ではない点や、対象患者の中にCNSを起因菌とするPVEが含まれている点が挙げられ、対象をMSSAによるPVEに限った場合に同じ結果が出るのかは不明である。
残念ながら、MSSAを起因菌として限定したPVEに対して、単剤治療に対する多剤併用療法の優位性を議論した論文を見つけることができず、テーマに対する明確な答えは出せなかった。今回調べたことより言えることは、現状では明確な根拠がないままMSSAによるPVEに対して多剤併用治療がされているが、少なくともブドウ球菌(MSSA, CNS)を起因菌とするPVEにおいては単剤治療と比較して多剤併用治療を行った方が、手術検体培養陰性となる可能性が高いということにとどまった。現行の3剤併用療法の妥当性を検証するためにも、今後MSSAに限定したPVEの単剤療法との比較検討が行われることを期待する。
- 感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017年改訂版)
- Infective Endocarditis in Adults: Diagnosis, Antimicrobial Therapy, and Management of Complications. A Scientific Statement for Healthcare Professionals From the American Heart Association . Circulation 2015; 1435-1486
- Cosgrove SE, Vigliani GA, Fowler VG, et al. Initial low-dose gentamicin for Staphylococcus aureus bacteremia and endocarditis is nephrotoxic. Clin Infect Dis 2009; 48: 713–721.
- 2015 ESC Guidelines for the management of infective endocarditis
- Drinković D, et al. Bacteriological outcome of combination versus single-agent treatment for staphylococcal endocarditis. J Antimicrob Chemother. 2003; 52; 820-825 .
寸評;これも面白いレポートです。ただ、結語が余計でした。エフェクトサイズはp値よりも大事っていう学習をしましたし、前向き研究が必ずしも必須でも偉くもないのだ、という学びにもなりました。
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