注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
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肺化膿症の予後不良因子は何か?
肺化膿症は、微生物の感染によって肺実質の壊死が引き起こされる疾患である。肺化膿症に対しての内科的治療に反応せず、予後不良となる素因は何か調べることにした。
Haganらは肺化膿症の予後不良因子として、6cm以上の大きな膿瘍、膿瘍が複数であること、2ヶ月以上症状が持続すること、高齢者、免疫不全者、悪性新生物や異物などによる気管支閉塞に伴う二次性肺化膿症、起因菌が好気性菌であることを挙げている1)。ハリソン内科学でも同様に、予後不良因子として60歳以上の高齢者、好気性菌の関与、敗血症、2ヶ月以上の有症状期間、6cm以上の大きな膿瘍が挙げられている2)。実際、上記等の因子が予後に影響するかを明らかにした研究として、以下の2つの研究がある。
Hirshbergらは肺化膿症による死亡の予測因子について研究しており、初診時のHbが低値(<10g/dl)であった症例はHb>10 g/dlの症例に比べ死亡率は高く(58.3% vs 12.9% (p=0.0008))、また起因菌がStaphyloccus aureusやKlebsiella pneumoniae、特にPseudomonas aeruginosaであった症例も死亡率が高かった(左から順に死亡率50%、44%、83%)。膿瘍の数や大きさで死亡率に有意差はなかったが、膿瘍が2つ以上で、膿瘍が5.5㎝以上であると在院日数は有意に長くなった2)。
安藤らは肺化膿症における予後影響因子について検討しており、治療難渋例と治療成功例に分けて、患者背景、併存疾患についてレトロスペクティブに比較検討を行った。ここでいう治療難渋例とは内科的治療抵抗性で外科的治療を要した症例、死亡例もしくは治療終了後1か月以内に再燃した症例と定義されている。この研究によると男女比、病変部位、喫煙歴、初診時の白血球数、CRP、起因菌の種類などで予後に有意差はなかったが、治療難渋例では平均年齢が有意に高く(81.27歳 vs 64.06歳 (p<0.01))、年齢と併存疾患をスコア化したCharlson Co-morbidity Index(CCI)が有意に高く(3.45 vs 1.25 (p<0.01))、治療開始2ヶ月後における病変の縮小率が有意に低かった(27.3% vs 69.1% (p<0.05))3)。
現在、抗菌薬の進歩などにより、肺化膿症の死亡率は減少しているが、内科的治療が奏効しない例では、経皮的、内視鏡的ドレナージや手術など外科的治療に移行する例や死に至る例もある。Haganらが考えた予後不良因子やハリソン内科学で言及されている予後不良因子のうち2ヶ月以上症状が持続すること、免疫不全者、二次性肺化膿症、敗血症であることについて他の研究で明確には検討はされていないが、肺化膿症の患者が以上の2つの研究から得られた予後不良因子を有している場合は注意して経過を観察し、外科的治療の検討や内科的治療の見直しが必要であると考えられる。
参考文献
1)Hagan JL, Hardy JD:Lung abscess revisited. A survey of 184 cases. Ann Surg 1983;197: 755-62.
2)Hirshberg B, Sklair-Levi M, Nir-Paz R:Factors predicting mortality of patients with lung abscess. Chest 1999 Mar; 115:746-50. 9
3)安藤克利, 大国義弘:肺化膿症における予後不良因子の検討 感染症学雑誌 第84巻第4号2010 Mar
4)日本語版監修; 福井次矢, 黒川 清:ハリソン内科学第5版. メディカル・サイエンス・インターナショナル2017年 p838-840
寸評;83年といえば、まだCTが十分に普及していない時代なのですね。そこに気づけばさらによかったですが、学生さんにはきつい要求だったかもしれません。
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