注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「セラチア感染症は積極的なアルコール消毒で減少するか」
セラチア感染症は一般に院内感染症の原因と考えられ、その1〜3%を占めており医療従事者の手や爪、医療器具、消毒液が病原体の蓄えられている場所である。【1】院内感染症予防策としてアルコール消毒は日常的に行われているが、セラチア感染症に限定した場合でも積極的なアルコール消毒で効果があるのかを調べてみることにした。
実験室内でエナメル板にSerratia marcescensに暴露させ、その板に70%(w/v)アルコールをかけた群(A群)、水と洗剤で拭いた後に70%(w/v)アルコールをかけた群(B群)、除菌を目的とした作業を行わなかった群(C群)とでSerratia marcescensの量がどう変化するかを調べた研究がある。【2】C群ではSerratia marcescensが数え切れないほどのコロニーを形成したが、A群とB群では共に元の99.9999%にあたるおよそ6logのSerratia marcescensの菌数の減少がみられた。この結果より、少なくとも実験室内でアルコール消毒はSerratia marcescensを減少させる効果があると言える。
またPurell Instant Hand Sanitizerというアルコール消毒剤を用いて手指消毒を行った場合、 Serratia marcescensがどれほど減るのかを調べた研究でも、元の量の99%以上のSerratia marcescensの菌数の減少が見られた。【3】よって、手指消毒においてもアルコール消毒はSerratia marcescensを減少させる効果があると言える。
先ほどの研究と並行して行われた、ある医療施設で看護師がPurell Instant Hand Sanitizerを用いて手指消毒を行って看護を行う群(Ⅰ群)とアルコールを使わずに洗剤で手を洗って看護を行う群(Ⅱ群)とで、Serratia marcescensを含む院内感染の発生率を調べた研究がある。【3】その結果、Ⅰ群の院内感染発生率がⅡ群に比べて30.4%少なかった(p<0.05)。したがって、アルコールでの手指消毒がSerratia marcescensを含む院内感染を減少させる効果があると言える。
今回、アルコール消毒が環境にあるSerratia marcescensの菌数を大きく減少させること、アルコールでの手指消毒が医療者にあるSerratia marcescensの菌数を大きく減少させることが分かった。よって、Serratia marcescensの感染経路と考え合わせると積極的なアルコール消毒は患者に生着するSerratia marcescensの菌数を大きく減少させると言える。これとアルコールによる手指消毒がSerratia marcescensを含む院内感染を減少させる効果があることから、セラチア感染症は積極的なアルコール消毒で減少すると考えてよいと思う。
- ハリソン内科学 第5版
- Maurício Uchikawa et al. Effectiveness of disinfection with alcohol 70% (w/v) of contaminated surfaces not previously cleaned. 2013 Mar.-Apr.;21(2):618-23
- J. Fendler et al. The impact of alcohol hand sanitizer use on infection rates in an extended care facility. 2002
寸評;演繹法と帰納法を学びましたね。さて、与えられた情報でセラチア感染はアルコールで´減る´
でしょうか。なかなか難問でしょう?
コメント
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