米国のCDIガイドラインがどんどんアグレッシブになり、フィダキソマイシンが入ったり、バンコマイシンがファーストラインになったりと、大きな変化が起きている。
では、日本でも米国と同じようにやるべきか?
「日本と米国一緒にすんな!」「いや、グローバル・スタンダードじゃ。どちらも一緒や」という議論はよく起きるのだが、大事なのは「どこが、どのくらい違うのか?」である。イデオロギーとして「日本独自」や「米国流」を希求すると失敗する。
まず、微生物学的に、北米のC. difficileと日本のそれは違っていそうである。例えば、再発率が違う。米国や欧州のCDI再発率が概ね15%以上なのに対して、日本のそれは10%未満だ。
https://www.pharmaceutical-technology.com/research-reports/researchreportjapan-leads-in-preventing-cdi-recurrences-5911245/
また、日本のCDは重症化に関係するバイナリー・トキシンが少ないこともシステマティック・レビューで分かっている。また、このレビューでは、日本のCDにおいてはメトロニダゾール、バンコマイシンともに耐性が非常に少ないことも指摘している。
Riley TV, Kimura T. The Epidemiology of Clostridium difficile Infection in Japan: A Systematic Review. Infect Dis Ther. 2018 Mar;7(1):39–70.
ただし、保留事項としては、この論文はアステラス製薬がスポンサーになって書かれたものである。よって、フィダキソマイシン販促が目的なのは明らかで、そのへんのバイアスは考えなければならない。もっとも、内容は思いの外?堅牢で、それほど販促目的な感じもしないけど。もっともっとひどい文章は日本語パンフレットやランチョンセミナーでよく見かけ、いや、やめろ何をす33qwedrftyuio[p[[[
なお、世界的にもCDにおけるメトロニダゾール耐性菌はまだ少ない。ただし、CLSIとEUCASTでは基準が違うこと。両者は血中濃度を基準にブレイクポイントを決めているが、本来は腸内濃度でなければいけないのでそこは難しいこと、などが最近のレビューにまとめられている。
Banawas SS. Clostridium difficile Infections: A Global Overview of Drug Sensitivity and Resistance Mechanisms [Internet]. BioMed Research International. 2018 [cited 2018 Oct 10]. Available from: https://www.hindawi.com/journals/bmri/2018/8414257/
ところで、米国でもIDSA/SHEAガイドラインに異を唱える向きもある。リスクが低い患者であれば、メトロニダゾールが第一選択薬のままでいいじゃないか、というのだ。
Should Metronidazole Be Recommended for Mild Clostridium difficile Infections? [Internet]. Infectious Disease Advisor. 2018 [cited 2018 Oct 10]. Available from: https://www.infectiousdiseaseadvisor.com/gi-illness/treating-mild-clostridium-difficile-infections/article/775077/
最新の北米のデータでも、軽症のCDIに関しては治癒率、再発率、死亡率においてメトロニダゾールとバンコマイシンは差がなく、コストは前者のほうが安く、また薬剤耐性も出にくい。北米では腸内のVREが深刻な問題であり、日本でも同様のことが起きないか心配されている。
ちなみに、よく、点滴バンコマイシンの使用を抑制してダプトマイシンを使おう、耐性菌を減らそう!という意見を耳にするが、分子量の大きなバンコマイシンは点滴薬では腸には行かない(だから、経口でしかCDIは治療できない)。よって、VRE増加の原因にはなりえない。だから、管理すべきは経口薬の方なのだ。
メトロニダゾール脳症が心配だ、という意見もある。たしかに、心配ではあるが、本症は基本的に可逆性で、早く気づいて薬を止めれば患者は回復する。気づくことが大事なのであり、発症そのものを怖がって使わない根拠としては、弱い。
最近の高血圧のガイドラインや、前立腺がん、乳がんスクリーニングの推奨でもそうだが、米国ではガイドラインが出てもすぐにみんなが盲信することはない。ガイドラインは評価の対象なのであり、信じるマントラではないのだ。日本では厚労省の通知やガイドラインを神のお告げのように「信じる」「信じない」で扱う悪いクセが散見される。逆に、「外国のガイドラインだからダメだ」とろくに評価もしないで全否定するのも、ガイドラインを信心の対象としているからだ。やはりクリティークにおいては米国に一日の長がある。いや、相当先を走られている。
ちゃんとデータをクリティークするのは、科学の基本中の基本である。忖度や空気や教授のでかい声でものを決める悪習は病院から駆逐すべきである。
というわけで、神戸大学病院では基本的にCDIはメトロニダゾールが第一選択薬のままである。重症例ではその限りではないが、幸い北米と異なり重症例は比較的少ない。早期発見、早期診断していればなおのことだ。やはり、大事なのは迅速かつ正確な診断なのである。
2018年10月11日。付記です。聖マリの国島先生たちがメトロニダゾールとVCM比較したメタ分析やってました。見逃してましたすみません。重症だとVCMベターだけどそうでなければ引き分け、という従来どおりの結論。 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29934056
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。