注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「急性前立腺炎の治療効果判定には何を用いるべきか」
急性前立腺炎では症状として頻尿・切迫性尿失禁(93%)、発熱(34%)、排尿障害(25%)(1)などがあるが、いずれも非特異的で決まったものがないため、その治療効果判定に用いることのできる指標がないか検索した。
急性細菌性前立腺炎の治療期間については合計で14~28日であるが、ほとんどの場合治療開始後2〜6日以内に発熱はやわらぎ、排尿障害は消失する(1)とされている。しかし、これはUpToDateでの記載のみで引用となる文献は示されていなかった。
また、前立腺炎はPSA上昇の原因であり(2)、急性細菌性前立腺炎におけるPSA値は治療とともに正常値に戻る傾向がある(1)とされている。
日本での前向き研究(n=6)によると、急性細菌性前立腺炎の治療前はCRPが4.5〜17.2mg/dl(平均値8.6)、PSAが4.1〜13.6ng/ml(平均値8.6)と上昇していたが、1〜2週間の抗菌薬投与により、治療後は全ての患者においてPSA値は0.4〜2.8ng/mlの正常値に戻り、発熱は消失、CRPも正常値になった。(3)別の前向き研究(n=31)では、急性前立腺炎の診断・治療開始後1ヶ月間のPSA値やCRPが測定され、PSA値は15.44±11.37(day 0), 20.08±19.35(day 3), 8.73±4.32(day 10), 4.74±3.33(day 30)ng/mlであり、CRPは103.6±63.89(day 0), 41.53±21.54(day 3), 6.67±2.30(day 10), 3.75±1.09(day 30) mg/lと推移した。(4)
ただし、この研究では治癒例でPSA値が低下したとは言えるが、治療失敗時にPSA高値が持続したという報告がないため、治癒とPSA値の低下が必ずしも同義ではないことに注意すべきと考える。
さらに、尿培養について見てみると、治療開始後7日目の尿培養で陰性であれば全治療期間後の寛解が予測され(5)、7日目の培養の時点でまだ陽性であればin vitroでの薬剤感受性試験に基づいて他の治療を始めるべきとされている。(1)ただし、この引用元の文はかなり古くアブストラクトのみであった。
したがって、急性前立腺炎の治療効果判定としては2〜6日以内の発熱を含めた症状改善、PSA値、7日目の尿培養陰性が有用である可能性があると思われるが、実際にそれを目的とした研究は見つからなかった。
【参考文献】
(1) Alain Meyrier, MDThomas Fekete, MD
『Acute bacterial prostatitis』UpToDate
(2)Stephen Freedland, MD
『Measurement of prostate-specific antigen』UpToDate
(3)Noboru Hara, Hiroshi Koike, Sojiro Ogino, Mina Okuizumi, and Mokoto Kawaguchi. Application of Serum PSA to Identify Acute Bacterial Prostatitis in Patients With Fever of Unknown Origin or Symptoms of Acute Pyelonephritis. The Prostate. 2004 Sep 1;60:282-288.
(4)Gamé X1, Vincendeau S, Palascak R, Milcent S, Fournier R, Houlgatte A. Total and free serum prostate specific antigen levels during the first month of acute prostatitis. Eur Urol. 2003 Jun;43(6):702-5.
(5) Arakawa S1, Kamidono S. Assessment of the UTI criteria for bacterial prostatitis in Japan. Infection. 1992;20 Suppl 3:S232-4.
寸評;これは、このレポートを書いた学生さんの問題ではないのですが、マーカーの基準が臨床症状なのですよ。だから、臨床症状をみてれば、マーカーは見る必要はない。要するに、研究者のほうがおかしいのです。バイオマーカー研究の本質的なジレンマ、の一つだと思います。
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