注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
眼梅毒は梅毒感染後いつ頃から、どんな頻度で発症するのか?
またリスクファクターは何か?
近年、梅毒の患者は急激に増加している。梅毒は感染後約3-90日の潜伏期間を経て発症し、進行するにしたがって全身性に様々な臓器や器官で症状を引き起こし、死に至る場合もある。では、具体的に各部位の症状はどんな頻度で、どれくらいの潜伏期間を経て発生するのだろうか。また、リスクファクターにはどんなものがあるのだろうか。今回は、数ある症状の中でも担当患者に発症していた眼症状について考察してみる。
まず、梅毒患者の眼症状を引き起こす頻度に関してだが、米国で2014年と2015年の患者を調査したところ、梅毒患者の中で眼症状を伴っていたのが2014年では29583人中157人(0.53%)、2015年では35547人中231人(0.65%)であった。詳細としては、その中の93%が男性で、性交渉のパートナーに関する情報を提供してくれた男性のうちの69%がMSMであった。またHIV陽性患者は51%であった。平均年齢は44歳(範囲は17歳-79歳)であった(1)。
次に、梅毒感染後いつ頃から眼症状が発症するかに関して、日本で行われた後ろ向き研究では、
・RPRが8倍以上かつTPHAが陽性であった日、または過去の梅毒歴を有する患者でRPRが4倍増加した日
・上記が満たされなかった直前の日付
の2つの日付の中間の日付を梅毒に感染した日と定義し、8人の患者を対象に研究を行ったところ、梅毒感染から眼症状の発症との中央値は11ヶ月(範囲:2.5-45ヶ月)であり、8例中7例が梅毒感染の2年以内に眼梅毒を発症した。そして半数は感染後1年以内の梅毒早期に発症した(2)。
今回参照した一つ目の論文では、男女の割合、MSMの割合、年齢に関しては、梅毒患者のうち眼症状が生じた患者については記載されていたが、研究対象となった全ての梅毒患者について記載されていたわけではないため、データから眼梅毒がどのようなリスクファクターがあるのか推定することは難しい。二つ目の論文では、症例が8件しかないため他と大きく乖離したデータが一つでもあると平均値が大きく変わってしまっている可能性がある。また、この研究では眼症状の原因が梅毒であるかどうかの診断がなされていないため、時期が過大評価、または過小評価されている可能性もある。両テーマに関しての研究は近年始まったものであるため、更なる研究が進められることが期待される。
この2つの研究からは梅毒による眼症状はどの時期にも生じうるが、感染後2年以内に多く、頻度は1%未満であると推測されるが、リスクファクターは不明である。眼梅毒は見逃してしまうと不可逆的な視力喪失を引き起こす恐れがあるため決して見逃してはいけない疾患である。したがって、早期発見と治療のために目の充血、視野異常・視力低下などの眼症状を持つ患者には梅毒を疑い血清学による検査や髄液検査などを積極的に行うことが重要である。
参考文献
(1) Ocular syphilis - Eight jurisdictions, United States, 2014-2015(Article) MMWR/ Weekly / November 4, 2016
Oliver, S.E., Aubin, M., Atwell, L., Matthias, J., Cope, A., Mobley, V., Goode, A., Minnerly, S., Stoltey, J., Bauer, H.M., Hennessy, R.R., DiOrio, D., Fanfair, R.N., Peterman, T.A., Markowitz,
(2)Time to development of ocular syphilis after syphilis infection /Journal of Infection and Chemotherapy/January 2018:MotoyukiTsuboi,TakeshiNishijima,ShigekoYashiro,KatsujiTeruya,YoshimiKikuchi,NaomichiKatai,HiroyukiGatanaga,ShinichiOka.
寸評:提出時にレポート直しましたね。ディスカッションしたことをちゃんと覚えておきましょうね。
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