注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「入院患者における痛風発作発症のリスク因子はなにがあるのか」
私は今回、AVRの術後、痛風による右膝関節炎で発熱をきたした患者さんを担当した。この症例を学ぶ中で、どのような患者が痛風発作になりやすいのかという疑問を持った。そこで「入院患者における痛風発作発症のリスク因子はなにがあるのか」について調べた。
まず、そもそも入院することは痛風発作のリスク因子になるのかということを調べた。
Maureen Dubreuilらは、痛風発作の発症因子についてのケース・クロスオーバー研究を行った。痛風発作を発症した724人の患者について調べたところ、1年間のうちに35人が入院しており、そのうちの2人は痛風発作による入院であったため除外された。33人のうち、9人は外科手術、8人は急性感染症、7人は心血管疾患、5人はその他の理由での入院であり、4人は理由が示されなかった。全33人の入院のうち、23人は入院して2日以内に痛風発作を起こしており、残りの10人は入院して2日以降に痛風発作を発症した。この結果から、新規で入院した患者の再発性痛風発作の発症リスクは4倍増加することがわかった。(オッズ比:4.05、95%信頼区間:1.78~9.19) (1
この論文から入院が痛風発作のリスク因子になることがわかる。
では、具体的に入院後の発症リスクとなっているものは何かを調べた。
E H Kang, E Y Lee, Y J Lee, Y W Song, E B Leeは術後に発症する痛風発作の臨床的特徴および危険因子を調査した。1999年12月から2006年3月までの間にソウル国立大学病院リウマチ科に相談された1543人の外科患者のリストから術後に痛風発作を発症した67人の痛風既往のある患者を登録した。痛風の診断は「関節液中に尿酸ナトリウム結晶が存在すること」で、術後の痛風発作は、「全身麻酔下で手術を施行されてから20日以内に発症する発作」と定義された。コントロール群として、全身麻酔下で同時期に外科手術を施行された390人の患者のうち、十分な臨床情報を有していた67人の痛風既往はあるが術後に痛風発作を起こさなかった患者を登録した。そして、術後の痛風発作に関連する危険因子を確立するために患者群とコントロール群で人口統計や医療背景、実験データ、外科的因子が比較された。結果、単変量解析では、術前血清尿酸値(p<0.001)、がん手術の既往(p=0.003)、胃腸の手術(p=0.021)、コルヒチン(p=0.011)またはアロプリノール(p=0.002)を術前内服しなかったことが術後の痛風発作の危険因子であることがわかった。また、多変量解析では、がん手術の既往(p=0.002)、術前血清尿酸値が9mg/dL以上であること(p=0.002)、コルヒチンを予防投与しなかったこと(p=0.008)が術後痛風の危険因子であることがわかった。(2
この論文から、入院後の痛風発作発症のリスク因子は、がん手術、胃腸の手術であることがわかる。
今回の患者さんは、入院後2日以降に痛風発作を起こしており、またAVR手術のため痛風発作のリスクとはならず、稀なケースである。ただし、上にあげた2つの論文は痛風既往のある患者を扱っており、今回の患者さんは痛風の既往がないため、一概に当てはまるとは言えない。
参考文献
- Increased Risk of Recurrent Gout Attacks with Hospitalization: The American Journal of Medicine, Vol 126, No 12, December 2013, Pages 1138-1141.e1
- Clinical features and risk factors of postsurgical gout
E H Kang, E Y Lee, Y J Lee, Y W Song, E B Lee: Ann Rheum Dis 2008;67:1271–1275.
寸評:これは今年最高のレポートの一つです。命題設定、問題の前提の議論、問題の本論の議論、そして結語と、見事な構成でした。素晴らしかったです。
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