人工関節感染において有効な画像診断は何か。

注意！　これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。

２０１６年７月１５日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計５時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、５時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。

また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。

あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。

ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで

 

テーマ：人工関節感染において有効な画像診断は何か。

　人工関節はQOLの改善にきわめて有効である一方で、人工関節感染(PJI)は最も深刻な合併症である。(1)　PJIの治療には抗菌薬の長期的投与や、外科的手術を受けなければならない場合が多く、最悪の場合、下肢切断などに至ることもある。また、PJIの中には自覚症状が軽微なものもあり、早期発見・診断が重要であると考えた。そこで、PJIの診断に有効な画像診断について調べてみた。

　320人のPJI患者に対して行われた後ろ向き研究(2)では、X線で感染が示唆された症例が股関節で61％、膝関節で29％、うちインプラントの緩みが見られたものが股関節で55％、膝関節で31％のみであった。また、CTに関してはアーチファクトが大きく、PJIの診断には有用ではなかった。

　KweeTCらによるシステマティックレビュー(3)では、FDG−PET-CTの感度は82.1％、特異度は86.6％であった。しかし人工関節置換後１年間は、置換手術による炎症のために偽陽性が多くなる。そのため、置換術後早期には診断に使用できない。また、システマティックレビューによる結果のためそれぞれの研究で条件が異なり、一貫したデータとは言えず、FDG-PET-CTがPJIの診断に有効であるかは議論の余地がある。

　Jiang MH(4)らの人工関節置換患者におけるPJIおよび腫瘍再発に対するMRIの診断効果を研究した後ろ向き研究を調べた。従来MRIはアーチファクトが大きく、PJIの診断には有用ではないとされてきた。しかしこの研究では、VAT法(view angle tilingによる撮像スライス面内における歪み補正機能)と組み合わせて受信機帯域の幅を増加させ、スライス圧を減少させることで、金属に誘発されるアーチファクトを大幅に減少させることができた。そしてPJIの診断においては、不規則な軟部組織塊(感度/特異度：52.6％/89.6％)、軟組織浮腫（100％/73.1％）、骨破壊（47.4％/92,5％）および瘻孔（47.4％/100％）が特徴的な所見であり、MRI VAT法はPJIの診断に有用であるとされている。

　PJIの診断において、MRIやFDG-PET-CTは比較的感度、特異度が高く診断の補助としては有用と言えるだろう。しかし、画像のみで診断するのに有用であるとは言えない。よって今回はPJIの診断において有効な画像診断は見つけることができなかった。

 

• 人工関節の診断と治療：米国感染症学会による実践的臨床ガイドライン

(2) Diagnostic work-up strategy for periprosthetic joint infections after total hip and knee arthroplasty: a 12-year experience on 320 consecutive cases. Zajonz D,etal　Patient Saf Surg. 2015 May 16;9:20. PMID: 25987902

(3)FDG-PET for diagnosing prosthetic joint infection: systematic review and metaanalysis.

KweeTC.etal Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2008 Nov;35(11):2122-32. PMID: 18704405

(4) Magnetic resonance imaging parameter optimizations for diagnosis of periprosthetic infection and tumor recurrence in artificial joint replacement patients. Jiang MH, etal　Sci Rep. 2016 Nov 14;6:36995..　PMID: 27841342 Free PMC Article

 

寸評：良いレビューです。画像を根拠とするのは難しいですね。