注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「結核性髄膜炎において治療開始のタイミングと予後に関連性はあるか」
結核性髄膜炎は、初期では発熱、食欲不振などの非特異的症状が多く、髄液所見も細菌性髄膜炎に類似しており、早期診断が難しい疾患である(1)が、臨床医が結核性髄膜炎を疑った際に、治療を開始するまで具体的にどの程度のタイムリミットがあるのか気になったため、治療開始タイミングと予後の関連性について考察することにした。
Jau-Jiuanらは1997-2006年にNational Taiwan University HospitalとTaipei Medical University Hospitalにて、105例の結核性髄膜炎患者を対象に、予後不良因子および結核の治療の遅れの要因を評価するために後ろ向き研究を行った(2)。
この研究では、physician delayを”来院から結核の治療を開始するまでの日数”と定義しており、physician delayは0-81日であり、中央値は5日であった。prolonged physician delayはphysician delayの中央値である5日より多くの日数が治療までに要したことを指す。また、完治および軽度から中等度の後遺症のみの残存を“予後良好”と、重度の後遺症の残存および死亡を“予後不良”と定義している。
来院当日から結核の治療を開始した群では4%のみが予後不良を示したのに対して、翌日以降に治療を開始した群では35%が予後不良を示し、有意差が認められた(オッズ比:14.6 95%信頼区間:1.9-113.3 P=0.001)。来院して5日以内に結核の治療を開始した群では11%が予後不良を示したのに対して、6日目以降に治療を開始した群では44%が予後不良を示し、こちらでも有意差が認められた(オッズ比:6.4 95%信頼区間:2.3-17.7 P<0.001)。また、結核治療を開始する前に死亡した2名の患者を除き、予後不良患者群と予後良好患者群を比べると、来院から治療開始までの日数は11日 vs 3日であり、予後不良患者群で有意に長かった(P<0.001)。
prolonged physician delayが存在した群は50例でそのうち予後不良を示したのは22例、prolonged physician delayが存在しなかった群は55例でそのうち予後不良を示したのは6例であり、多変量解析で、prolonged physician delayは患者が予後不良を示す独立した予測因子であることが分かった(オッズ比:3.83 95%信頼区間:1.08-13.55 P=0.037)。
以上より、結核性髄膜炎において、治療開始のタイミングと予後には密接な関係があり、治療開始の遅れは患者に重度の後遺症もしくは死をもたらす危険性があることが分かった。結核性髄膜炎を疑った際に、治療を開始するまでの具体的なタイムリミットは5日間であると言えるだろう。
この研究は最終診断が結核性髄膜炎であった患者を対象に行った後ろ向き研究であり、来院当日には結核性髄膜炎が疑われたが、最終診断は結核性髄膜炎ではなかった患者が無視されていることを考慮すると、来院当日に結核性髄膜炎が鑑別にあがった時点で、結核の治療を開始するべきであると結論づけることはできない。結核性髄膜炎が鑑別にあがった時点で結核の治療を開始したが、最終診断が結核性髄膜炎ではなかった患者群と、ある程度の時間をかけて結核性髄膜炎以外の疾患を否定し結核の治療を開始したが、最終診断が結核性髄膜炎ではなかった患者群の予後の比較など、今後のさらなる研究を期待する。
【参考文献】
(1) Up to date; Central nervous system tuberculosis; Sep 28, 2017
(2) J.-J. Sheu, R.-Y. Yuan, and C.-C. Yang, “Predictors for outcome and treatment delay in patients with tuberculous meningitis,” The American Journal of the Medical Sciences, vol. 338, no. 2, pp. 134–139, 2009.
寸評:これもとても良いレポートです。ただし、早期のエンピリカル治療のもつ欠点(薬の毒性など)の不利益は「結核性髄膜炎を疑ったけど実は違ってた」患者で検証しないと分かりません。ここを議論できたらもっと素晴らしかったでしょう。
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