『end colostomyとloop colostomyで術後における腹腔内膿瘍の合併の差について』

注意！　これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。

２０１６年７月１５日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計５時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、５時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。

また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。

あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。

ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで

 

『end colostomyとloop colostomyで術後における腹腔内膿瘍の合併の差について』

 

 

ストーマ造設に関連した合併症について、単孔式結腸ストーマ造設(end colostomy)とループ式結腸ストーマ造設(loop colostomy)において腹腔内感染、膿瘍の発生率に差があるのか興味を持ち、調査した。

Temporary transverse colostomy vs loop ileostomy in diversionは横行結腸ストーマ(TC)(end9例、loop54例)と双孔式回腸ストーマ(LI)63例の術後の合併症や死亡率などを比較した臨床研究で、腹腔内膿瘍はTCで5例、LIで2例生じ、統計学的有意差はみられなかった。ストーマ周囲感染の定義は有害事象共通用語規準（CTCAE）²⁾では「A disorder characterized by an infectious process involving a stoma (surgically created opening on the surface of the body).」となっていて、ストーマ造設は術者が慣れ親しんだ方式で施行すべきだと考察されていた。

Complications and mortality following stoma formation.は1992年1月から2000年12月までの320人の患者に対する345例のストーマについての合併症や死亡率などを比較した臨床研究である。end colostomyが210例、loop colostomy は47例、end ileostomyは44例、loop ileostomyは44例施行された。ストーマ周囲膿瘍に関してはend colostomy で1例(0.5%)、loop colostomyで2例(4%)生じた。

データをχ²検定すると約0.012(P値≒0.912)となり、end colostomyとloop colostomyでは発生率に統計学的有意差はないと考える。

ここでend colostomy と loop colostomyの術内容についても考察してみる。ストーマ造設の手順のオプションの1つに腹膜や筋膜と挙上した腸管の固定があり、ストーマ周囲膿瘍形成にはこの固定が原因の1つとして考えられる¹⁾。 Loop colostomyでは合併症としてストーマ脱出の頻度が高いため、予防のために筋膜と固定を行うことがあり、ストーマの形状による腸管と筋膜の固定の頻度の差がストーマ周囲膿瘍の発生率に影響があるかは、今後さらなる検討が必要である。

結論としては、今回調べた範囲ではストーマ造設において結腸ストーマの形状(単孔式と双孔式)でストーマ周囲膿瘍発症に統計学的有意差は見られず、腹腔内膿瘍では評価できなかった。

〈参考文献〉

1)消化管ストーマ造設の手引き　日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会

日本大腸肛門学会　　　　　　　　　　　　　文光堂

2) Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) version 4.0

3)Sakai Y, Nelson H, Larson D, Maidl L, Young-Fadok T, Ilstrup D. Temporary

transverse colostomy vs loop ileostomy in diversion: a case-matched study. Arch

Surg 2001; 136: 338–42.

4)DA HARRIS,D EGBEARE,S JONES,H BENJAMIN,A WOODWARD,ME FOSTER

.Complications and mortality following stoma formation. Ann R Coll Surg Engl 2005

;87:427-431

 

寸評：非常に面白い命題で、統計計算も自分でやったというのは好感をもちました。アウトカムが少ない場合はfisher検定のほうがベターです。いっしょにRで計算してみせたので、次からは自分でできますね。医師国家試験大学別合格率ランキングに意味があるか、など身近なテーマで検証してみてください。