医学書院さんに依頼された書評。ブログ転載許可を頂いたので、こちらにも紹介。
神経症状の診かた・考えかた 第2版
本書の著者である福武敏夫先生は亀田総合病院神経内科部長であり、前職でお世話になった。私が長く診ていた患者の(私が見逃していた)若年性アルツハイマー病を診断していただいたことが今も忘れられない。
本書の初版が出たのが2014年。通常、医学書の改定には5年程度かかることが多い。本書のような診断に関する本は特に情報のターンオーバーが(治療の進歩に比べて)緩やかなので、たった3年で改定されるというのは稀有な話といえよう。そのことが本書のニーズの高さを物語っている。
本書は神経診断の指南書であるが、膨大な回路図や画像、身体診察のなんとか徴候が羅列されているわけではない。そのような細切れの情報が疾患という全体性を表現できないと著者が考えているからであろう。著者は本書の中で何度か「論理的思考」「帰納法と演繹法のせめぎあい」という言葉を使っている。現象たる疾患全体を丸のままで理解するには患者の全体像を把握する理路が必要だからであろう。部分情報の収集が全体像を作るとは限らないからで、パズルのピーズをかき集めてもピーズの山盛りができるだけなのだ。ロジカルな思考だけがピースを像たる全体にする。
本書の博覧強記的な「メモ」は読み物としても面白い。「不思議の国のアリス症候群」の発見者Todd氏がTodd麻痺のToddとは別人だと知るのはちょっとした知的快感だ。膨大な症例も勉強になる。筆者が一つ一つの症例をいかに大事にしているかの証左であり、自身の症例報告もふんだんに引用されている。症例報告は大事なのだ。
本書を読むべき読者は神経内科医のみならず、すべての診断に関心のある医師であろう。診断能力の高い医師は、例外なく神経に強い。先日も神戸大の若手神経内科医がL.ティアニーに果敢に挑戦し、そして返り討ちにあっていた(対麻痺で発症した血管内リンパ腫の患者だった!)。オーセンティックな神経内科学の学習は診断能力の向上に欠かせない。本書を強くお薦めする理由がそこにある。
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