注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
【頸部膿瘍において菌の侵入経路の推定に、画像所見はどの程度有用であるか?】
頸部膿瘍の原因には齲歯、咽頭炎、扁桃炎、耳下腺炎、急性喉頭蓋炎等の口腔内疾患であるが、原因巣により異なる侵入経路をとって頸部膿瘍に至る。今回のBSLでは、患者の頸部膿瘍の感染巣を推定するに辺り、画像診断の有用性がどの程度であるかということに疑問を持ったため、この疑問をテーマとして考察を行った。
頸部膿瘍の画像診断には、単純X線、CT、MRI、超音波検査がある。この中ではCTが最も多くの情報を得られるとされているため1、本レポートでは特にCTの侵入経路の推定の有用性に注目した。
頸部膿瘍で最も頻度の高い原因疾患は歯性感染症である2。頸部膿瘍が歯原性であるかを推定する上でのCT画像の有効性を検討するために、1997年にJournal of Computer Assisted Tomography に掲載された“Odontogenic Versus Nonodontogenic Deep Neck Space Infections: CT Manifestations”という論文を用いた3。この論文では、歯原性深頸部感染と診断された患者21人と、歯原性ではない他の原因による非歯原性の深頸部感染と診断された23人の患者において造影CT撮影を行い、画像上における所見の差を比較している。結果として歯原性の頸部膿瘍を来した患者では、非歯原性の頸部膿瘍を来した患者に対して、膿瘍の存在を示す低吸収領域が傍咽頭間隙、顎下間隙、咀嚼筋間隙に有意に多く見られると示された。感度/特異度は、それぞれ傍咽頭間隙の低吸収域が86%/78%、顎下間隙の低吸収域が86%/39%、咀嚼筋間隙の低吸収域が42%/91%であった。これらの所見が有意となったのは、上顎・下顎の臼歯が感染した場合頰粘膜と接触しやすく、下顎臼歯の歯根は深く咀嚼筋、顎下間隙に菌が到達しやすいという解剖学的な特徴に由来すると考えられる。また、膿瘍の存在する場所と感染した歯の種類の間に有意な相関は認めなかった。その他の所見としては、歯原性頸部膿瘍の症例では非歯原性頸部膿瘍の症例に対して気道狭窄を示す症例が有意に多く、この点も画像所見で歯原性か非歯原性かを推定する要素となるだろう。
また、歯原性の場合で頸部膿瘍の原因歯の推定におけるCTの有用性については、Aleksandraら4が行った研究では、CT画像上で原因歯の周囲の骨溶解像を示したのは38症例中の30症例(79%)であった。
非歯原性の頸部膿瘍については、急性耳下腺炎に由来する頸部膿瘍の所見として山中ら5が造影CTで後頸間隙に造影効果を受ける低吸収域の膿瘍を認めると記載しているが、患者背景などは不明である。その他、長内ら6が症例報告にて扁桃周囲炎後の頸部膿瘍について咽頭後間隙に低吸収域を認めると述べている。
以上より、歯原性の頸部膿瘍に至る菌の進展経路の推定に画像診断はある程度寄与しうると言える。しかし、今回非歯原性の頸部膿瘍に特徴的な所見に関して検索できたのは症例報告レベルの資料のみであり、今回の考察で非歯原性の頸部膿瘍の菌の侵入経路の推定に画像診断が有効であるという結論は得られなかった。
【参考文献】
- “深頸部感染症と画像診断” 菊地 茂・大畑 敦 耳鼻臨床2007
- “Deep neck infection - analysis of 80 cases”/Alexandre Babá Suehara,Antonio José Gonçalves, Fernando Antonio Maria, Claret Alcadipani, Norberto Kodi Kavabata ,Marcelo BeneditoMenezes/ Brazilian Journal of Otorhinolaryngology/2008
- “Odontogenic versus non-odontogenic deep neck space infections: CT manifestations.” Kim HJ1, Park ED, Kim JH, Hwang EG, Chung SH,Journal of computer assisted tomography, 1997
- “Odontogenic Inflammatory Processes of Head and Neck in Computed Tomography Examinations.”Aleksandra Wabik, Barbara K.Hendrich,Jan Nienartowicz,Maciej Guziński,and Marek J. Sąsiadek,Polish Journal Radiolology,2014
- 中山書店“21世紀耳鼻咽頭科領域の臨床 画像診断”/山中 昇,国本 優/2001
- “扁桃周囲炎後の咽後膿瘍症例”/長内 洋史,渡邉 昭仁,川堀 眞一,原渕 保明/耳鼻と臨床/2001
寸評:難しいテーマでしたがよくまとまってます。感度、特異度が「よい」か「悪い」かは多分に主観なので、判定は難しいですね。プロの放射線科医に意見を聞いたのも非常に良い態度だったと思います。前向きに学習するって大切ですね。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。