注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「クリプトコッカス髄膜炎に脳梗塞が合併するリスク因子にはどのようなものがあるか」
クリプトコッカス髄膜炎(CM)はCryptococcus neoformansが起因菌であり、生命を脅かす真菌性髄膜炎として知られている。CMの合併症のうち生命予後を悪化させるものとして脳梗塞が挙げられるため、CM患者において脳梗塞発症を予測することのできる因子があるのかについて今回考察することにした。
CMは免疫能低下者に日和見感染としてみられることが多く、基礎疾患として最も重要であるのはHIV感染である。そこで、HIV感染者とHIV非感染者において脳梗塞発症のリスクが異なるのかをまず考えた。HIV感染者4308名とHIV非感染者32423名を1996年から2009年まで追跡し、脳梗塞の発症を比較したコホート研究が報告されている。この研究におけるエンドポイントは脳梗塞の発症であり、結果として914名の患者に脳梗塞が発症し、そのうちHIV感染者は132名、HIV非感染者は782名であった。即ちHIV感染者において脳梗塞の発症率は1000人年につき5.27、HIV非感染者では1000人年につき3.75であり、ハザード比は1.40(95%CI 1.17-1.69、p<0.001)となっていた。また、50歳以下の若い世代と女性で特に、HIV感染と脳梗塞発症との関連性が高いという結果が得られた。年齢、性別をコントロールした後でもHIVが脳梗塞を予測する独立したリスク因子であり(HR 1.21、95%CI 1.01-1.46、p=0.043)、これらの結果からHIV感染は脳梗塞の発症率を上昇させ、とりわけ若年者と女性においてリスク因子であると言える。
次に、HIV非感染のCM患者における脳梗塞発症のリスクについて考える。ケース群をHIV非感染かつ急性/亜急性の脳梗塞(ASCI)のあるCM患者10名、コントロール群をHIV非感染かつASCIのないCM患者30名としたケースコントロール研究(2008〜2014)が報告されている。ケース群10名のうち6名は脳梗塞が1箇所のみ、4名は脳梗塞を多発していた。この研究では可能性のあるリスク因子として、水頭症、髄液圧>250mmH2O、LDL>3.64mmol/L、糖尿病、高血圧、喫煙、飲酒、免疫抑制剤の使用、脳梗塞の既往が挙げられた。このうち、解析後リスク因子と判断されたのは水頭症と喫煙であり、水頭症はケース群4名、コントロール群1名、喫煙はケース群4名、コントロール群3名という結果となっていた。つまり、HIV非感染のCM患者において、水頭症(OR=23.77、95%CI 1.67-339.33、p=0.020)と喫煙(OR=11.63、95%CI 1.14-118.96、p=0.039)がASCI発症の独立したリスク因子であることが分かった。ただし、この研究は症例数が少なく後ろ向き研究であるため、十分に正確な情報とは言えないことに留意する。
結論としては、まず第一にCMには脳梗塞が合併する可能性があることを認識すべきであり、CM患者に対して脳梗塞の有無を確認する必要がある。特にHIV感染者や、非感染者であっても水頭症や喫煙歴のあるCM患者は脳梗塞発症のリスクが高いため、神経学的所見や意識状態の確認など脳梗塞の評価を日々行うべきであると考える。
〈参考文献〉
- Chow FC, et al. Comparison of ischemic stroke incidence in HIV-infected and non-HIV-infected patients in a US health care system. J Acquir Defic Syndr. 2012;60:351-358.
- Chen YF, et al. Risk factors associated with acute/subacute cerebral infarction in HIV-negative patients with cryptococcal meningitis. J Neurol Sci. 2016;364:19-23.
寸評)脳梗塞群と非脳梗塞群でfisher検定をしたら、
fisher.test(matrix(c(4,6,3,27),nrow=2))
Fisher's Exact Test for Count Data
data: matrix(c(4, 6, 3, 27), nrow = 2)
p-value = 0.05196
alternative hypothesis: true odds ratio is not equal to 1
95 percent confidence interval:
0.747697 49.749803
sample estimates:
odds ratio
5.656947
fisher.test(matrix(c(4,6,1,29),nrow=2))
Fisher's Exact Test for Count Data
data: matrix(c(4, 6, 1, 29), nrow = 2)
p-value = 0.009957
alternative hypothesis: true odds ratio is not equal to 1
95 percent confidence interval:
1.416732 976.405182
sample estimates:
odds ratio
17.37986
となりました(R)。水頭症では有意差がありますが、喫煙では有意差はでていません。どうしてでしょうか。直感的にも10例と30例の比較試験で有意差が出るようには思えませんが。
あと、水頭症は脳梗塞のリスクでしょうか、結果でしょうか。相関と因果は同義ではありませんが、どう思いますか。
HIV感染者のデータはクリプトコッカスとは関係ないので、完全にirrelevantだと思いますが、これについてはどうでしょう。
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