注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「腎移植患者における発熱の原因をどのように鑑別するか」
腎移植患者に認められる発熱の原因の多くは拒絶反応や感染症である1)。いずれも重篤な結果に結びつく危険性を持ち、また治療法がまったく異なることから、両者を鑑別することは重要であると考える。確定診断を行うには腎生検や血液培養、PCRを行う必要があり2)3)、これらの検査には相当な時間を要することから、検査結果以外の情報から両者を鑑別できないかと考え、このテーマを設定した。
まず、「症状によって発熱の原因を鑑別することはできないか」と考えた。
移植腎に対する拒絶反応の症状として、発熱、違和感、乏尿、移植臓器の圧痛、高血圧、尿量現象と血清クレアチニンの増加を伴う腎機能低下が挙げられる4)。
似たような症状を示す感染症に腎盂腎炎がある。腎盂腎炎は高温、悪寒、悪心、嘔吐、側腹部痛や腰部痛を認める2)。腎移植における高血圧は拒絶反応だけでなく、①患者自身の腎臓病、②腎動脈の狭窄、③カルシニューリン阻害薬の腎毒性などによっても惹起される2)ため、高血圧があるからといって拒絶反応が起きていると断定することはできない。
以上より、両者の症状に大きな差は無く、症状から拒絶反応と腎盂腎炎を鑑別することは難しいと考えた。
では、症状以外の情報から拒絶反応と腎盂腎炎を鑑別することはできないだろうか。
PHILLIP K.ら5)は、University of Minnesota Hospitalにて腎移植術を施行された433人の患者について、3年間の後ろ向き研究を行った。38.3℃以上の発熱をきたした患者194人のうち感染症によるものは144例(74%)、拒絶反応によるものは25例(13%)であった。腎移植から発熱までの期間を1-14日、14-120日、120日-1年、1年以上に分類すると、感染症(CMV+細菌)によるものはそれぞれ40%(2/5例)、71%(89/125例)、67%(12/18例)、50%(23/46例)であり、拒絶反応によるものはそれぞれ40%(2/5例)、16%(20/125例)、11%(2/18例)、2%(1/46例)であった。しかし、これらの統計学的有意差に対する分析はなされておらず、「腎移植から発症までの期間」という情報から発熱の原因を鑑別できるかどうかは分からなかった。
Kenneth J.ら6)は腎移植に失敗した患者186人に対する後ろ向き研究を行った。免疫抑制を終了していた群と継続していた群に分けると、機能不全後6ヶ月以内に発熱をきたした患者のうち感染症の罹患率はそれぞれ38%、88%であった(P<0.001)。つまり、免疫抑制を終了していた群では発熱の原因が感染症である確立が有意に低くなることが分かった。この結果から「免疫抑制を継続中であるかどうか」という情報が発熱の原因の鑑別の助けになるのではないかという考えが浮かんだが、この研究はそもそも腎移植に失敗した患者を対象としているので、今回のテーマにそのまま当てはめることは難しいと考えた。
今回の検討では、検査結果以外の情報から発熱の原因が拒絶反応か感染症かを鑑別する有効な方法を見つけることはできなかった。もし臨床症状から拒絶反応による発熱の可能性を否定できれば感染症が強く疑われるが、拒絶反応による発熱が疑われる場合は腎盂腎炎との鑑別が困難である。腎移植から発症までの期間、免疫抑制を継続中であるか、という情報も鑑別に有用であるかどうかは分からなかった。
〈参考文献〉
1)腎移植のすべて p404
2)ハリソン内科学 第5版
3)レジデントのための感染症診療マニュアル
4)Brit Long, MD Alex Koyfman, MD The emergency medicine approach to transplant complications; American Journal of Emergency Medicine 34 (2016) 2200–2208
5)PHILLIP K. PETERSON, M.D. Fever in Renal Transplant Recipients: Causes, Prognostic Significance and Changing Patterns at the University of Minnesota Hospital; September 1981 The American Journal of Medicine Volume 71: 345-351
6)Kenneth J. Woodside, Zachary W. Schirm, Fever, Infection, and Rejection After Kidney Transplant Failure; Transplantation & Volume 97, Number 6, March 27, 2014 648-653
寸評)いろいろ目の前のデータにヒントは散りばめられているのに、もう一つ踏み込めませんでしたね。
まず、発熱患者のうち感染症は7割以上、拒絶は1割ちょっとしかなかったというデータが肝心です。これが事前確率なので、発熱すれば「とりあえず感染症と考えればわりと正しい」ことが分かります。事前確率があればベイズの定理を用いて検査、事後確率がでますから、戦略的にはこれだけで診療もできます。
さらに、移植後の時期による発熱原因もでているのだから、各時期の感染である確率も計算でき、さらに2xn表をつかって統計解析だってできたはずです。今や統計ソフトはただでネットからダウンロードできますし、使い方もネットで勉強できます。ここまでやればアクティブラーニングであり、ただ論文を探して訳して並べるだけでは「自分の」レポートとはいえません。
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