注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
胸骨切開術後の胸骨骨髄炎に対するVacuum-Assisted Closure療法は有効なのか?
Vacuum-Assisted Closure療法(VAC療法)とは、1997年にArgentaら1)が考案した非侵襲性の創傷治癒システムで、創傷を密封し陰圧ドレナージを加えることで、創縁の引き寄せ、肉芽形成の促進、滲出液や感染性汚染物質の除去、組織の浮腫軽減などの効果により創傷治癒を促進させる物理療法の1つである。深部胸骨創感染である縦隔炎に対するVAC療法の有効性を調べた。
Patrique Segersら2)は、1992年~2003年の間にアムステルダム大学病院にて心臓手術後に縦隔炎を発症し処置を必要とした63人の患者を対象にVAC療法と従来の閉鎖ドレナージ法を行い比較し、縦隔炎に対するVAC療法の有効性を評価する後ろ向き研究を行った。63人のうち、29名がVAC療法を行った患者群(topical negative pressure: TNP群)、34名が従来の閉鎖ドレナージ法を行った患者群(closed drainage techniques: CDT群)である。培養では47例にStaphylococcus aureus、10例にCoaglase-negative staphylococci、33例にグラム陰性菌が認められた。手術部位感染(Surgical Site Infection: SSI)による死亡はTNP群で4例、CDT群で7例で有意な差はみられなかった。SSIの再燃はTNP群では8例、CDT群では18例であり、TNP群で有意に減少した(p<0.05)。また、退院時でも創傷が完全に治癒しておらず、外来患者として治療の継続が必要となった患者数は、TNP群では8例、CDT群では20例とTNP群で有意に減少した(p<0.05)。
以上より、胸骨切開術後の縦隔炎に対するVAC療法はSSI再燃率の低下、創傷治癒の促進の点から有効であるといえる。また、死亡率に有意な差が認められなかったものの、VAC療法は従来の管理方法のように頻回に洗浄などのガーゼ交換を行うことがなく、医療者患者双方の負担が軽減されるというメリットもあり、胸骨切開術後の縦隔炎に対する治療選択の一つとして充分な理由になりえる。
<参考文献>
- Argenta LC, Morykwas MJ. Vacuum-assisted closure: a new method for wound control and treatment: clinical experience. Ann Plast Surg 1997;38:563-577
- Patrique Segersa,*, Antonius P. de Jonga, Jaap J. Kloeka and Bas A.J.M. de Mola,b: Poststernotomy mediastinitis: comparison of two treatment modalities. Interact CardioVasc Thorac Surg (2005) 4 (6): 555-560.
寸評:別のとこ(ブログ)でも書きましたが、日本人はlimitationを書いたり検討したりするのが苦手です。ある研究を読んだら、criticalに読んで、著者の主張を鵜呑みにするのではなく、問題点がないかどうかも考えましょう。そしていろいろな仮説をたてましょう(なぜ、結果がそうなのか。VACがよいからか。他の仮説はないか)。仮説をきちんとたてるのは、患者のアセスメントと治療方針の決定でもとても重要です。論文を読むのはよい臨床のトレーニングなんです。がんばってください。
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