注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
difficile腸炎の再発を防止する有効な治療は存在するか?
difficile下痢症は菌交代現象によりC. difficileが過剰に増殖し,同菌より2種類の毒素(毒素A,毒素B)が産生されることにより起こる.投薬中の抗菌薬の中止およびC. difficileに対するメトロニダゾール(またはバンコマイシン)の投薬により95%程度の症例において症状の改善が期待されるが,一方で現在確立されている治療法をもってしても20%程度の症例で再発を認めるとの報告もあり,全身状態不良の患者にとっては著しいQOLの低下につながることも想像に難くない.
現在確立されているC. difficile関連下痢症に対する治療としては,初発患者には抗菌薬の中止と必要であればメトロニダゾール(あるいはバンコマイシン)の経口投与を行い,再発1回目は初発と同様の治療を,2回目はバンコマイシン漸減療法を行うこととなっており,3回目以降はバンコマイシン漸減療法に加え,γグロブリン静注が行われることもあるという(1).こうした中,再発率を下げうるとして近年注目されつつあるのが,抗毒素抗体を用いた治療,および糞便移植である.今回はこれら2つの新しい治療法が実臨床での運用に値するかどうか,検証していく.
抗毒素抗体を用いた治療については,次のような研究がなされた(2);Lowy Iらは2006年からの約2年間,本疾患に対し抗菌薬による治療を受けている患者200人に毒素A・Bに対するモノクローナル抗体を投与する前向き第Ⅱ相試験を行った.二重盲検下で,一方の集団(101人)には体重1kg当たり10mgの抗体を,対称集団(99人)には偽薬が投与し,投与開始後84日目までのC. difficile下痢症の再発率を比較したところ,抗体を投与した群の方が有意に低かった(7% vs. 25%; 95%信頼区間 7- 29; P < 0.001).
次に糞便移植についてだが,これは患者の腸内に健常者の糞便を移植することにより腸内細菌叢の正常化を図る治療法である.もっとも,本治療法に関しては最善のプロトコルは確立されておらず,浣腸,大腸内視鏡,胃管,カプセルによる経口摂取など様々な方法で行われているため,統計学的な検証をし辛い状況にある.以下に示すのは試験デザインの異なる12の論文から得られた集計に過ぎず,統計的な意味に乏しいことを明記しておく;Postigo RらによるPubMed上の論文を集計した182人の患者についての報告によれば,大腸内視鏡では93.2%(138人/148人)の患者が,胃管では85.3%(29人/34人)の患者が再発をきたさず完治したという(4).
いずれの治療法にしても,上記の論文が現状最大規模の研究といった具合であり,有効性証明にはまだ難しい.抗菌薬治療以外に抗毒素抗体や糞便移植による治療も良い結果を認めているようであるが,現段階では十分な統計学的検証がなされておらず,今後より大規模な研究が期待されるところである.
参考文献
(1) レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版 青木 眞
(2) Clostridium difficile in adults: Treatment UpToDate 2016.4.21にアクセス
(3) Lowy I et al.: Treatment with monoclonal antibodies against Clostridium difficile toxins. N Engl J Med 2010.
(4) Postigo R et al.: Colonoscopic versus nasogastric fecal transplantation for the treatment of Clostridium difficile infection: a review and pooled analysis. Infection. 2012 Dec;40(6):643-8.
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