注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
高IgE血症に合併しやすい感染症は何か
高IgE症候群は比較的まれな原発性免疫不全症候群であり、皮膚、肺、およびその他の内臓の重傷ブドウ球菌性膿瘍と血清IgEの著しい高値を特徴とし、様々な感染症を合併する。高IgE症候群患者として200例以上が報告されており、この疾患で最も多いタイプ(常染色体優性遺伝)はSTAT-3 をコードする遺伝子の変異によるものであることがわかっている。常染色体劣性遺伝の高IgE症候群もまれに存在し、TyK2をコードする遺伝子の変異であると言われている。臨床的に、幼少期から続く皮膚炎、繰り返す細菌感染から高IgE血症と診断される。(1)(2)高IgE血症がどのような感染症を合併するのかとその理由を疑問に思ったので、調べた。
Minegishi YらはNIH(National Institute of Health)スコア40以上かつSTAT-3に変異のある高IgE血症患者と健康なコントロール群についてコホート研究を行った。高IgE血症患者とコントロール群のTh17サイトカインの産生量を比べたところ、高IgE血症患者はコントロール群の5~10%の産生量であり、全身性のTh17サイトカインの産生障害を生じていることがみられた。皮膚と肺において、好中球をリクルートするケモカイン(CXCL8)と抗菌ペプチド(β-defensin2/3)はTh17依存性に産生されているので、高IgE血症患者ではこれらのケモカインや抗菌ペプチドが皮膚や肺で産生されにくい。これは、黄色ブドウ球菌やカンジタによる感染症が皮膚や肺に限局することに寄与していると思われる。(3)
Chandesris MOらは、フランス人の47の家系から60人のNIHスコア40以上かつSTAT-3に変異のある高IgE血症患者を対象に21年間のコホート研究を行った。結果として、患者全体の100%が黄色ブドウ球菌に、85%がカンジタに感染した。皮膚粘膜の感染が最も多く、患者全体の73%が冷膿瘍、45%が膿痂疹・膿疱症・膿皮症、35%が毛包炎/癤、16%が蜂窩織炎を合併した。90%が細菌性肺炎に罹患し、82回あった細菌性肺炎エピソードのうち、29%(24回)が黄色ブドウ球菌、30%(25回)が肺炎球菌の感染によるものであった。(4)
また、他の感染症としてはGrimbacher B, Freeman AFの報告では、高IgE患者のニューモシスチス肺炎、アスペルギルス、ノカルジアによる肺炎も報告されている。(5)(6)(7)
以上のことから、高IgE血症患者は皮膚と肺に、黄色ブドウ球菌やカンジタ、肺炎球菌による感染症の合併が多い。また、ニューモシスチス肺炎やアスペルギルス、ノカルジアによる肺炎など、通常は細胞性免疫が低下している場合に起こる感染症も合併することがある。
参考文献
- ネルソン小児科学 第19版 858
- Timothy R LaPine, et al. Autosomal dominant hyperimmunoglobulin E syndrome Uptodate Nov 17, 2015
- Yoshiyuki Minegishi, et al. Molecular explanation for the contradiction betweensystemic Th17 defect and localized bacterial infection in hyper-IgE syndrome, The Rockefeller University Press Exp. Med. 2009.Jun。8.Vol. 206 No. 6 1291-1301
- Marie-Olivia Chandesris, et al. Autosomal Dominant STAT3 Deficiency and Hyper-IgE Syndrome Molecular, Cellular, and Clinical Features From a French National Survey , Medicine (Baltimore). 2012 Jul; 91(4): e1–19.
- Grimbacher BHyper-IgE syndrome with recurrent infections--an autosomal dominant multisystem disorder N Eng J Med 1999;340:692-702March4,1999
- Freeman AF et al. Causes of death in hyper-IgE syndrome. J Allergy Clin Immunol. 2007;119(5):1234
- Freeman AF et al. Pneumocystis jiroveci infection in patients with hyper-immunoglobulin E syndrome. Pediatrics. 2006;118(4):e1271.
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