注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「benzathine penicillin G筋注が第一選択薬である梅毒に対するアモキシシリンとプロベネシドは有効であるか?」
梅毒に対する治療はCDCガイドライン2015(1)によると、HIV感染を問わず、1期、2期梅毒、早期潜伏性梅毒にはbenzathine penicillin G (BPG) 240万単位を筋注で1回、後期潜伏性、3期梅毒には240万単位を1週間おきに3回、計720万単位を筋注することが第一選択である。しかし日本ではBPG筋注が使えないので、これに対する代替案として、アモキシシリンにプロベネシドを併用した経口薬治療を行ってきた。しかしこの治療の効果を示す研究はほぼないのに、実臨床でこれら2剤が使われている(2)ということで、今回これら2剤による経口薬治療が有効であるかを考察してみた。
Tanizakiら(3)は、2000年から2014年に日本のAIDS Clinical Centerで286人の梅毒+HIV患者を対象に後ろ向き研究を行った。梅毒はRPR≧8とTPHA陽性で診断され、髄液検査で神経梅毒と診断された患者又は耳、眼の症状を認める患者は除外された。これらの患者はアモキシシリンとプロベネシドにより治療された。24ヶ月以内にRPRで4倍以上の抗体価の低下を認めた場合を治療成功と定義したところ、全患者中95.5%が成功となった。Early期 (69.6%; 1期: 5.6%、2期: 51.0%、早期潜伏性: 12.9%)とlate期 (30.4%; 後期潜伏性: 7.3%、感染期間不明: 23.1%) の治療成功率はそれぞれ97.5%、90.8%と高かった。治療期間は2週間 (49.7%)もしくは4週間 (34.3%)が選択されることが多く、治療成功率に関してearly期では治療期間により差はなかったが、late期では有意差は見られないものの4週間の方が高かった (82.9% vs. 94.4%; P = .15)。以上からこれら2剤の経口療法に高い効果があることが示された。
しかしこの研究ではBPG筋注に対するこれら2剤の非劣性は証明されておらず、これを証明する研究を見つけることができなかった。これは筋注が使えない日本を含め少数の国だけの問題であり、BPG筋注の梅毒に対する効果が長年の経験だけでなくRCTで証明されている(1)ことが原因で、今後もそのような研究が施行される可能性は低く、非劣性であると証明できないと考えた。そこで梅毒+HIV患者をBPG筋注で治療した研究の治療成功率を参考にすると(4)、1、2期で95.7%、潜伏期で82.6%、全体で91.4%という結果が得られた。よって(3)の研究の成功率と比較して、アモキシシリンとプロベネシドの経口薬治療は有効であると思う。
[参考文献]
(1) 2015 Sexually Transmitted Diseases Treatment Guidelines
(2) 青木眞, レジデントのための感染症診療マニュアル第3版, 医学書院, 2015, 977-1002
(3) Tanizaki R, et al. High-dose oral amoxicillin plus probenecid is highly effective for syphilis in patients with HIV infection: Clin Infect Dis. 2015 Jul 15;61(2):177-83
(4) Andreja S, et al. Syphilis and HIV co-infection: excellent response to multiple doses of benzathine penicillin. Acta Dermatovenerol APA 2014;23:1-3
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