注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
Noonan症候群の肥大型心筋症に対する心筋切除術は有用であるか
Noonan症候群は特異な顔貌、低身長、翼状頸などTurner症候群と類似の表現型をとる疾患である。主な心症状としては肺動脈弁狭窄や二次性肥大型心筋症の2つが挙げられ、Noonan症候群の肥大型心筋症は通常の肥大型心筋症(HCM)に比べて予後が悪いという報告がある(1)。HCMの治療としては、薬剤抵抗性の重症例や突然死の高リスク症例に対して心筋切除術や切開術といった外科手術が適応となっている(2)。今回、Noonan症候群患者の肥大型心筋症に対する心筋切除術の有用性について検討することにした。
HCM、特に閉塞型肥大型心筋症(HOCM)に対する心筋切除術についてはNicholas G.ら(3)による323人のHOCM患者を対象とした前向き研究や、Dominic Jら(4)による211人のHOCM患者を対象とした後向き研究で、いずれの研究においても術後に左室流出路圧較差の減少、NYHA分類による症状の改善がみられた。また、5年生存率についてもそれぞれ96%、98.1%と良好であり、その有効性が示されている。
一方でNoonan症候群患者への心筋切除術について評価した文献が1件あったので以下に示す。Joseph Tら(1)は1996年から2014年にかけて、HCMと診断された5676例の患者のうち、Noonan症候群と診断され左室流出路閉塞に対して心筋切除術を行った患者12人とHOCMに対して心筋切除術を行った非症候群患者24人を対照した後ろ向き研究を行った。術後の左室流出路圧較差は若干前者の方が高かったものの共に低下し(29±11 mmHg vs 3±3 mmHg, p<0.05)、NYHA分類による症状の改善も両群で見られた (88% vs 82%)。また、術後の長期生存率 (平均追跡期間:7年間) は前者が92% (11/12 人) 、後者が100% (22/22 人) いう結果であった。Noonan症候群患者のうち死亡した1人は、手術から9年後に人工僧帽弁の心内膜炎による心源性脳塞栓症により死亡した。
疾患の頻度の問題から、大規模な研究を行うことは困難だが、上記のデータのようにNoonan症候群患者への心筋切除術は少なくとも左室流出路閉塞についてはHOCMと同程度に有用であると考える。
- Joseph T, et al. Surgical ventricular septal myectomy for patients with noonan syndrome and symptomatic left ventricular outflow tract obstruction. Am J Cardiol 2014;116;1116-21
- 肥大型心筋症の診療に関するガイドライン(2012年改訂版)
- Nicholas G, et al. Current effectiveness and risks of isolated septal myectomy for hypertrophic obstructive cardiomyopathy. Ann Thorac Surg 2008;85;127-34
- Dominic J, et al. Short and medium term outcomes of surgery for patients with hypertrophic obstructive cardiomyopathy. Ann Thorac Surg 2015;99;1213-9
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