注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
脳膿瘍に対して、穿刺吸引術と切除術どちらが良いか
脳膿瘍は脳実質内の化膿性炎症と定義される。治療としては通常、高用量の抗菌薬と外科的処置が必要とされ、外科的処置には定位脳手術による穿刺吸引や、開頭による膿瘍切除などが含まれる。(1)穿刺吸引術の方が手技が簡便で侵襲が少ないと考えられるが、それによって切除術に比べ予後が変化するかを検討する。
Chinese PLA General Hospitalで行われたMRIによるガイド下に穿刺吸引を行った23名と、開頭にて膿瘍切除を行った22名の比較試験では、術後在院日数(Mean±SD 15.30±9.16 vs 14.10±8.28 p=0.937)や神経機能回復に要した日数(Mean±SD 2.63±3.50 vs 2.00±1.88 p=0.436)に有意差はなかった。再手術は、吸引したうちの1名で行われたが、切除した患者では行われなかった。両群とも死亡者は0であった。ただし、この研究では患者群の病変の数、位置、症状の程度などは明らかにされていない。(2)
Arif Hussainらによる47名の患者の表層の膿瘍に対する吸引と切除を比較した後向き試験では、死亡率(7% vs 6%)では有意差はなかったが、再手術率(24% vs 0% p=0.0238)では有意に切除群が勝っていた。(3)
Pandeyらによる穿刺吸引を行った11名と膿瘍切除を行った71名を比較した後向き試験において、再手術(5名vs 7名 p=0.008)、再発(6名 vs 9名 p=0.003)、死亡数(4名 vs 0名 p=0.001)といずれも有意に膿瘍切除群が優れていた。(4)
これらの試験が全て後向き研究であり、ランダム化もされていないこと、患者数が数十名と少数であることから、3つ目の試験における結果の差が生じたと考えられる。以上の結果では、死亡数に関しては2つの試験では有意差を認めず、3つ目の試験では切除群が優れており、異なる結果を示した。いずれの試験でも再手術を必要とした症例は、吸引を行った場合の方が多い。このことから、切除術と吸引術いずれも有効だが、感染のコントロールにおいては切除術を行うことが望ましいと言えるかもしれない。
(1) レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版 青木眞
(2) Xiang-Hui Meng et al: Minimally invasive image-guided keyhole aspiration of cerebral abscesses. Int J Clin Exp Med 2015;8(1)155-163
(3) Arif Hussain et al: Aspiration versus excision: a single center experience of forty-seven patients with brain abscess over 10 years. Neurol Med Chir (Tokyo). 2012;52(10):724-30.
(4) Pandey P et al: Cerebellar abscesses in children: excision or aspiration? Neurosurgery. J Neurosurg Pediatr. 2008 Jan;1(1):31-4
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