注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
人工関節感染症に対する人工関節温存療法の有効性
人工関節感染治療の基本は、人工関節を抜去し、周囲のセメントなどを除去して長期間の抗菌薬投与を行い、その後に再び人工関節を入れるという2段階法であり、治療が成功する確率は、80%~90%である。一方で、人工関節を温存する治療の成功率は2段階法と比較して低いとされている。(1) 手術困難で保存的加療を選択した場合、温存療法がどの程度有効かを調べてみた。
Mailletらのレビューによれば、2014年までに行われた人工関節慢性感染における保存的治療の失敗率は29例中14例(48.3%)(2)であり、前述した2段階法群と比較すると治療成績は劣っていた。一方で人工股関節感染症において、人工関節温存治療群28例と、人工関節抜去治療群65例の治療成績を比較した後ろ向き研究では、初回手術後に治療が成功したのはそれぞれ50%と78%(p=0.81)でであった。温存群の治療成功率は抜去群と比較して治療成績、入院期間に有意差はないという結果であった。(3)しかしながらこの研究は後ろ向き、かつnが小さいという問題点があり、この結果をもって温存治療が有効であるとは言い難いと思われる。
この他高齢者の場合、治療の侵襲や、廃用予防も考慮して治療方針を決める必要がある。Fismanらは、人工関節を抜去して治療を行う事で、運動抑制や、長期のリハビリが必要となることを指摘している。65歳以上の高齢者に対する、人工関節温存治療群と抜去治療群を比較したコホート研究では、前者は後者と比較して、感染の再発率が高く、QOLスコアと生存年数に基づいた質調整生存期間も2.2-2.6ヶ月延長した(4)のみであった。
以上より、人工関節を温存した治療は抜去して行う治療と比較して治療成績が勝ることはなく、可能であれば人工関節は抜去することが望ましい、と判断した。今後は、温存治療を選択した患者の感染再発を低下させる様な治療戦略(経口抗菌薬の種類や内服期間)に関する、質の高い研究の蓄積が必要と思う。
(1)レジデントのための感染症診察マニュアル(第3版) 青木眞
(2)M.Maillet,P.Pavese,D.Bruley,A.Seigneurin,P.Francois. Is prosthsis retention effective for chronic infections in hip arthroplasties? A systematic literature review. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 2015;34:1495-1502
(3)Ho-Rim Choi,Fabian von Knoch,Abdurrahman O,et al. Retention treatment after periprosthetic total hip arthroplasty infection.International Orthopaedics 2012;36:723-729
(4)Dacid N.Fisman,Donald T.Reilly,Adolf W.Karchmer,et al. Clinical Effectiveness and Cost-Effectiveness of 2 Management Strategies for Infected Total Hip Arthroplasty in the Elderly.Clinical Infectious Disease 2001;32:419-430
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