注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
メトロニダゾールによる薬剤性膵炎のリスクはどれほどか
急性膵炎は腹痛や膵酵素の上昇を特徴とする重篤な疾患であり、その死亡率は5%に達する*1。急性膵炎の原因としては胆石やアルコールの頻度が高いが、低頻度(0.1~2%)で投与薬剤が原因となることが報告されている*2-4。薬剤性膵炎の臨床経過は、他の原因による急性膵炎と同様であるが、投与薬剤を中止することで軽快可能である。薬剤性膵炎の原因薬剤は500種類以上に及ぶと考えられており、その中でも症例報告が多く臨床上も重要なメトロニダゾールについて考察した*2-3。メトロニダゾールは嫌気性菌や原虫、Helicobacter pylori感染症に対して用いられる抗菌薬である*4。主な副作用は消化器症状や神経障害であり、膵炎は稀な有害事象として報告されている*4-5。
デンマークの膵炎患者3083名を対象とした後ろ向き研究では、急性膵炎で入院する何日前にメトロニダゾールを処方されていたかで膵炎患者を3群(30日以内、31~180日以内、181~365日以内)に分け、Control群(30830名)と比較した場合の急性膵炎発症の調整オッズ比を検討した*5。その結果は、30日以内の群で3.0 (95%信頼区間(CI):1.4~6.6)、31~180日以内の群で1.8 (95% CI:1.2~2.9)、181~365日以内の群で1.1 (95% CI:0.6~1.8)であった。また、Helicobacter pyloriの除菌目的で、メトロニダゾール+プロトンポンプ阻害剤+アモキシシリン、マクロライド、テトラサイクリンのどれかひとつの3剤併用治療を行った場合における急性膵炎発症の調整オッズ比についても同様に検討した*5。それぞれの急性膵炎の調整オッズ比は30日以内の群で8.3 (95% CI:2.6~26.4)、31~180日以内の群で2.7 (95% CI:1.4~5.5)、181~365日以内の群で1.7 (95% CI:0.6~4.8)であった。
以上のことから、メトロニダゾールによる薬剤性膵炎が発症しやすいのは投与後180日以内であり、特に投与後30日以内の急性膵炎では薬剤性を鑑別に挙げることが必要と思う。加えて、Helicobacter pyloriの除菌目的の3剤併用療法で投与後30日以内の薬剤性膵炎のリスクが大きく高まるのは興味深い。日本はHelicobacter pylori感染者が多く、メトロニダゾールがHelicobacter pyloriの二次除菌法として使用されているため、その合併症として薬剤性膵炎を考慮することは重要と思う。また、薬剤の併用により薬剤性膵炎のリスクが大きく変動する可能性が示唆されていることを考えると、薬剤性膵炎のリスク評価のためには更に知見が集積されることが重要と思う。
<参考文献>
(1)Cavallini G et al. Prospective multicentre survey on acute pancreatitis in Italy (ProInf-AISP): results on 1005 patients. Dig Liver Dis. 2004;36(3):205.
(2) Badalov N et al. Drug-induced acute pancreatitis: an evidence-based review. Clin Gastroenterol Hepatol. 2007 Jun;5(6):648-61
(3)Nitsche CJ. Drug induced pancreatitis. Best Pract Res Clin Gastroenterol. 2010 Apr;24(2):143-55
(4)レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版: 青木 眞
(5)Nørgaard M et al. Metronidazole and risk of acute pancreatitis: a population-based case-control study. Aliment Pharmacol Ther. 2005 Feb 15;21(4):415-420
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