注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
壊死性筋膜炎の早期診断に有用な所見はあるか
壊死性筋膜炎とは浅部筋膜、皮下脂肪、深部筋膜の広範な壊死を起こす感染症である。急速に進行するため致死率は15~34%と高く、予後の改善には早期診断が重要である(1)。そこで今回、壊死性筋膜炎の早期診断に有用な所見について考察した。
Gohらは1980~2013年に行われた、50人以上の患者を対象とする症例集積研究9件をもとに壊死性筋膜炎の早期診断に有効な所見について検討した。その結果、最も多く見られた早期症状は腫脹 (80.8%) であり、次いで疼痛 (79.0%)、紅斑 (70.7%) であった。特に皮膚所見と比べて疼痛が非常に強いという傾向があった。一方、37.5℃以上の発熱は40%でしか見られなかった。さらに、診断の一助と考えられているX線でのガス産生像も24.8%で見られたのみであった(2)。また、Schmidらは壊死性筋膜炎が疑われる22~76歳の男女17人を対象にMRIを施行し、MRIの壊死性筋膜炎に対する感度、特異度を調べた。MRIは発症から2~7日以内に施行し、壊死性筋膜炎の診断は術中所見に基づいて行った。その結果、感度100%、特異度86%であった(3)。
以上より壊死性筋膜炎の早期症状として腫脹、疼痛、紅斑が挙げられるが、いずれも特異的な所見ではなく、身体所見から壊死性筋膜炎を診断することは困難である。ただ、壊死性筋膜炎を疑う所見として、皮膚所見と比べて疼痛が非常に強いという点が挙げられる。また、発熱が無いという理由では壊死性筋膜炎を除外できないということも重要である。次に画像所見だが、X線でガスの産生が見られないという所見だけでは壊死性筋膜炎を除外できない。対して、MRIでは感度、特異度ともに高値という結果が得られたが、Schmidらの研究では症例数が少ない上にMRIを施行する時期が統一されておらず、早期診断に寄与するか確かではない。さらに、壊死性筋膜炎は時間単位で進行する疾患であり、入院から手術までの時間が24時間を超えると生存率が有意に低下とするという報告(4)もあるため、MRIを行うよりも早期に診断と治療を兼ねた軟部組織の外科的切開とデブリードマンを行う方がメリットがあると思う。よって、壊死性筋膜炎の診断は疼痛の状態から本疾患を疑い、出来る限り早期に外科的処置を行うことが優先されるべきだと思う。
参考文献
1) ハリソン内科学 第4版p.900、p935
2) Goh T, Goh LG, Ang CH, Wong CH. Early diagnosis of necrotizing fasciitis.
Br J Surg. 2014 Jan;101(1):e119-25.
3) M R Schmid, T Kossmann, S Duewell Differentiation of necrotizing fasciitis and cellulitis using MR imaging. AJR Am J Roentgenol. 1998 Mar;170(3):615-20.
4) Wong CH, Chang HC, et al. Necrotizing fasciitis: clinical presentation, microbiology, and determinants of mortality. J Bone Joint Surg Am. 2003 Aug;85-A(8):1454-60.
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