注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート
「腎膿瘍における抗菌薬とドレナージの有用性」
腎膿瘍は腎実質に感染性の膿瘍を形成し発熱、腰部痛、吐き気、嘔吐等を伴う疾患であり、発症機序としては血行性感染と尿路感染が上行性に波及して生じる場合がある(1)。前者は黄色ブドウ球菌が主な起因菌であり、後者はグラム陰性桿菌が原因となることが多い。腎膿瘍全体としてCoelho RFらの報告ではStaphylococcus aureusが18.3%、Escherichia coliが26.5%、Klebsiella pneumoniaeが22.4%であった(2)。治療法には、抗菌薬、ドレナージ、外科的切除がある(1)。ドレナージは侵襲的な治療であり、出血、創部感染、周囲腸管の損傷、菌血症、腹膜炎や麻酔に伴う有害事象などの合併症や術者の習熟度による影響などが考えられるため、効果と有害事象を慎重に衡量し治療を選択する必要がある。
Siegelらによる、1984年から1993年の9年間に行われた52人の腎膿瘍の患者を対象にした研究によると、抗菌薬のみで治療した11人の患者の治癒率は膿瘍径3cm未満の群で100%、3cm以上5cm未満の群で66%、5cmより大きい群では33%であった。また経皮的ドレナージのみで治療した33人の患者の治癒率はそれぞれ60%、92%、73%であり、5cmより大きい群で治癒しなかった残りの27%に対して2回目のドレナージを行ったところ全員が治癒した。
Lee SHらによる、2001年2月から2009年3月の間に行われた、51人の直径5cm以下の腎膿瘍をもつ患者を対象にした研究によると、49人は広域スペクトラムの抗菌薬静注のみ、残りの2人は経皮的ドレナージを施行された。抗菌薬は主に抗緑膿菌ペニシリン、第三世代セフェム系、アミノグリコシドを併用し、5人に対してはニューキノロンの単剤投与あるいは併用投与され、49人全員の腎膿瘍はCT上では消失した(4)。5cm以下の膿瘍に対して抗菌薬のみで治療することで高い奏効率が得られることを示唆する。
以上より直径3cm未満の膿瘍に対しては抗菌薬のみで奏効する可能性が非常に高いと言える。3cm以上5cm未満の膿瘍に対して抗菌薬のみの治療では異なる報告であり、抗菌薬のみでの治療は目指せるが、ドレナージが必要な可能性もあるため注意が必要である。ドレナージをした場合の奏功率は高い。5cmより大きい膿瘍に対して抗菌薬のみの治療の奏功率は低く、ドレナージによる効果は高いと言える。ただし、ドレナージによる効果が不十分な場合もあり、再ドレナージや手術も検討される。これらとドレナージの処置による有害事象とを衡量し治療方針を決定する。
参考文献
(1) Mandell, Douglas, and Bennett’s: Principles and Practice of Infectious Diseases. 8th ed, p.906-907.
(2) Coelho RF, Schneider-Monteiro ED, Mesquita JL, et al. Renal and perinephric abscesses: analysis of 65 consecutive cases. World J Surg 2007; 31:431.
(3) Siegel JF, Smith A, Moldwin R. Minimally invasive treatment of renal abscess. J Urol. 1996; 155: 52-55
(4) Lee SH, Jung HJ, Mah SY, Chung BH. Renal abscesses measuring 5 cm or less: outcome of medical treatment without therapeutic drainage. Yonsei Med J 2010; 51:569
(5) Up To Date; “Renal and perinephric abscess” 2014/12/04閲覧
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