注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
ニューモシスチス肺炎を伴うHIV感染患者に対していつ抗レトロウイルス療法を開始するべきか
抗HIV治療としてHAART(Highly Active Antiretroviral Therapy)が1996年に台頭したことによってHIV治療戦略の状況は劇的に変化した。しかし、抗HIV薬の副作用や長期にわたるHAARTに対する耐性の出現、そして複雑な投薬内容によるアドヒアランスの維持困難などの問題が生じてきている*1。
HIV感染症は治療が生涯にわたって継続するので治療をいつ開始するかはリスクとベネフィットに基づき具体的に考える必要がある。HIV感染患者に日和見感染が生じている場合はIRIS(Immune reconstitution inflammatory syndrome:免疫再構築炎症症候群)発症によるリスクを考慮する必要がある。IRISはHIV治療によりCD4陽性のリンパ球数が上昇することによって免疫反応が再構築されることにより全身に炎症が生じるものである。クリプトコッカス症や結核の場合ではIRISの出現によるリスクが上昇する為に治療の開始を遅らせるべきであるとの記載がある*2。一方でニューモシスチス肺炎(PCP)に関しては診断から二週間以内に、できる限り早急にARTを開始するべきであるとの記載がある*3。
日和見感染を伴うHIV患者に対して早期(4週間未満)にART開始することと晩期(少なくとも4週間以上)に開始するのではIRIS増悪に関して差がないとの報告*4が存在するが、一方で様々な日和見感染の患者282人(ニューモシスチス肺炎:63% クリプトコッカス髄膜炎:12% 細菌感染:12%)に対するランダム化比較試験において早期(日和見感染による症状を呈してから14日以内)にART介入をした患者群は晩期(日和見感染の治療が完了した直後)にART介入した患者群と比較して治療薬に関する有害事象なしにAIDS関連死亡率を50%下げることができるという報告*5が存在する。この報告ではニューシスチス肺炎を伴うHIV患者に対するARTでは、CD4陽性リンパ球数中央値が29/μlであったにも関わらず、177人中13人(7%)しかIRISを発症しなかった。またPCPによるIRISは生命を脅かすものではないとの報告もある*6。
以前はIRISによるリスクを考慮しARTを開始するのを遅らせることが主流であったが、上記の研究結果をふまえて現在ではニューモシスチス肺炎を伴うHIV患者対するARTはHIVと診断がなされてから2週間以内に開始することが推奨されている。
参考文献
1) Up To Date ;“When to initiate antiretroviral therapy in HIV-infected patients” 2014/12/3日閲覧
2) French MA.HIV/AIDS: immune reconstitution inflammatory syndrome: a reappraisal. Clin Infect Dis. 2009 Jan 1;48(1):101-7.
3) Aidsinfo.nih.gov 2014/12/05 閲覧
4) Philip M. Grant et al. Risk Factor Analyses for Immune Reconstitution Inflammatory Syndrome in a Randomized Study of Early vs. Deferred ART during an Opportunistic Infection. PLoS One. 2010 Jul 1;5(7):e11416.
5) Zolopa A et al. Early antiretroviral therapy reduces AIDS progression /death in individuals with acute opportunistic infections a multicenter randomized strategy trial. Plos One.2009;4(5):e5575
6) Jagannathan P et al. Life-threatening immune reconstitution inflammatory syndrome after Pneumocystis pneumonia: a cautionary case series. AIDS. 2009 Aug 24;23(13):1794-6.
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