注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症BSLレポート
感染性動脈瘤の治療において血管内ステントグラフト内挿術は可能か
感染性動脈瘤とは、正常な動脈壁に感染が起こって瘤が形成されるか、あるいは既存の動脈瘤に二次的に感染が起こったものをいう。治療は原則として、感染した動脈壁の外科的切除、および適切な抗菌薬の使用の二本柱によって行われる[1]。
外科的切除以外の選択肢としては、血管内ステントグラフト内挿術がある。これは治療の原則には反しているが、手術の侵襲が少ないという利点がある。外科的切除と比較して予後がどの程度変わるだろうか。胸部 (32名)または腹部 (16名)の感染性動脈瘤に対しステントグラフト内挿術を行った48名 (30-90歳、平均63.85歳)の患者についてシステマティックレビューが行われている[2]。このレビューでは、原因菌はサルモネラ (n = 10)、黄色ブドウ球菌 (n = 10)、連鎖球菌 (n = 3)、マイコバクテリア (n = 3)、その他 (n = 9)、未同定 (n=13)であった。多くの例では動脈瘤が疑われた時点で広域抗菌薬か、原因菌に感受性のある抗菌薬が使われた。またフォローアップ期間の平均は22ヶ月であった。フォローアップの期間中に、発熱がなく、敗血症の徴候がなく、出血がないものを治癒群と定義すると、治癒群は37名であった。残りの11名を持続感染群とすると、その中には発熱が遷延し他の症状がない例 (n=1)、制御できない敗血症の例 (n=7)、破裂や出血がみられた例 (n=6)が含まれた。全体での30日死亡率は10.4% (n=5)であり、内2名が心疾患、3名がグラフト関連の出血による死亡であった。2年生存率は、全体、治癒群、持続感染群の順に82.2%、94.0%、39.0%であった。多変量解析によると、術後持続感染のリスクファクターとして動脈瘤破裂および37.5℃以上の発熱があげられている。
一方、胸部大動脈 (6名)、胸腹部大動脈 (8名)、腹部大動脈 (9名)の感染性動脈瘤の患者23名 (43-83歳、平均70歳)に対し外科的切除および血管再建術を行った研究によれば、5年全生存率が95%で、5年で大動脈のイベントが起こらない率は86%であった[3]。
動脈瘤の部位、感染の重症度など患者背景が異なり生存率の期間も異なるため単純な比較はできないが、ステントグラフト内挿術は外科的切除には劣るものの、一定の効果があると思われる。ステントグラフトの治癒群での2年生存率は9割を超えているので、術後持続感染のリスクを避ければ有効な治療法になるのではないだろうか。全体での2年生存率は82.2%であったため現状ではステントグラフト内挿術は外科的切除・血管再建を置き換える治療法ではないと思われるが、外科的手術が困難な症例ではステントグラフト内挿術を選択肢として考慮してもよいのではないかと考えられる。
[1] Young-wook Kim, MD, FACS. Infected Aneurysm: Current Management. Ann Vasc Dis. 2010; 3(1): 7-15.
[2] Kan CD, Lee HL, Yang YJ. Outcome after endovascular stent graft treatment for mycotic aortic aneurysm: a systematic review. J Vasc Surg. 2007 Nov;46(5):906-12.
[3] Naomichi Uchida, MD, PhD, Akira Katayama, MD, Kentaro Tamura, MD, Sutoh Miwa, MD, Kuraoka Masatsugu, MD, Taijiro Sueda, MD, PhD. In Situ Replacement for Mycotic Aneurysms on the Thoracic and Abdominal Aorta Using Rifampicin-Bonded Grafting and Omental Pedicle Grafting. Ann Thorac Surg. 2012;93:438-42.
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