注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
バンコマイシン耐性腸球菌の治療薬の比較
腸球菌は腸内細菌叢を構成する主要菌の一つである。米国では医療関連感染原因菌の12%を占め、そのうち1/3はバンコマイシン耐性E. faeciumであると報告されている1)。
バンコマイシン耐性腸球菌 (VRE) 感染症の標準治療薬は確立していないが、Linezolid (LZD) またはDaptomycin (DAP) が一般的に用いられる。The U.S. Food and Drug Administration (FDA) によってVREの治療薬として承認されているのは蛋白合成阻害薬で静菌的に働くLZDである。一方、DAPは環状リポペプチド系の抗菌薬で細胞膜の脱分極作用による迅速な殺菌性の効果を期待して適応外使用される2)。
VRE菌血症に対する治療として、LZDとDAPの有効性を評価するメタアナリシスが2005年から2012年に公開された後ろ向きコホート研究10文献により行われた。合計967人中458人 (57 %) はLZD、349 人 (43 %) はDAPで治療された。その結果、培養陽性より30日以内の死亡率・感染症関連死亡率・院内死亡率はLZD治療群で有意に低かったが、臨床治癒・細菌学的治癒・副作用発生の割合には有意な差は見られなかった。VRE菌血症再発の割合においてもわずかにLZD治療の有効性が示された2)。DAPによる治療効果が有意に低いことが示唆された理由として、VREに対し適切な殺菌効果をもつDAPの投与量が判明していないことがあげられる。無作為抽出ではないため患者選択のバイアスも否めない。
LZD、DAP以外の選択肢としては、Quinupristin-Dalfopristin (QPR-DPR) がある。これはLZDとは作用点の異なる蛋白合成阻害薬で、VRE感染症の治療効果はLZDと同等であるとの報告がある3)。しかし中心静脈ラインからの投与の必要性やCYP3A4を介した薬理相互作用の考慮などが必要なため、使用される頻度は少ない2)。
以上より、現在ではVRE感染症の治療に対してはLZD選択がよいと考えられる。今後のDAP投与量の比較検討や多施設無作為臨床試験の実施が望まれる。
【参考文献】
1) Hidron Al, Edwards JR. NHSN annual update: antimicrobial-resistant pathogens associated with healthcare-associated infections: annual summary of data reported to the National Healthcare Safety Network at the Centers for Disease Control and Prevention, 2006-2007. Infect Control Hosp Epidemiol. 2008 Nov; 29(11): 996-1011.
2) Eleni P. Balli, Chris A. Venetis, Spiros Miyakis: Systematic Review and Meta-Analysis of Linezolid versus Daptomycin for Treatment of Vancomycin-Resistant Enterococcal Bacteremia. Antimicrob Agents Chemother. Feb 2014; 58(2): 734-739.
3) Rivera AM, Boucher HW: Current concepts in antimicrobial therapy against select gram-positive organisms: methicillin-resistant Staphylococcus aureus, penicillin-resistant pneumococci, and vancomycin-resistant enterococci. Mayo Clin Proc. 2011 Dec; 86(12):1230-43.
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