注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
PCPの治療におけるアトバコンの位置づけ
PCPとはPneumocystis jiroveciiによる肺炎である。細胞性免疫不全患者における日和見感染であるが、非HIV患者のPCPの場合、適切な抗真菌薬の使用がなければ致死率は90-100%にもなる。近年、医療の高度先進化に伴ってPCPのハイリスク患者は増加しており、適切に治療することが一般臨床において極めて重要になっている。
現在PCPの治療にはST合剤が第一選択として用いられている。ST合剤不耐容の場合、軽症~中等度のPCPではアトバコン、クリンダマイシンとプリマキンの併用、トリメトプリムとダプソンの併用が代替薬として推奨されている。中等度~重症のPCPにはペンタミジンが代替薬として推奨されている。この中でのアトバコンの位置づけについて考える。なお、軽度~中等度のPCPとはA-aDO2≦45mmHgかつPaO2≧60mmHgのものを指し、中等度~重症のPCPとはA-aDO2≧45mmHgのものを指す。1)
アトバコンとST合剤との比較はHughes.Wらの報告において行われており、その中でST合剤の方がアトバコンよりも有用性が高いと示されている2)。軽症~中等度のPCPに対してアトバコンの有効率は62%、ST合剤の有効率は64%と有意差は見られなかったものの(p=0.82)、効果が不足して無効とされた例の比率はアトバコンで20%、ST合剤で7%(p=0.002)、死亡率はアトバコンで7%、ST合剤で0.6%(p=0.003)とアトバコンが有意に高かった。また下痢を有する患者でのアトバコンの有効率は39%、下痢のない患者での有効率は70%と大きな有意差があった。一方ST合剤では下痢の有無による有効率の有意差はなく、下痢を有する患者にはST合剤の方が有効であると言える。また軽症~中等度のPCPにおけるアトバコンとペンタミジンの比較試験では、有効率がアトバコンで57%、ペンタミジンで40%と有意差は見られなかった(p=0.085)。生存率もアトバコンで86%、ペンタミジンで92%と有意差はみられなかった。中等度~重症のPCPに関してはアトバコンの他剤との比較試験はなく、本当にアトバコンよりも他剤が有効なのか調べる必要があると思う。
しかしながら薬剤において重要なのはその有効性だけではない。副作用によって薬剤の使用が続けられなくなることは大いにある。ST合剤は副作用が多彩な薬剤であり、発熱や発疹、悪心、嘔吐、肝障害、腎障害、好中球減少症、高カリウム血症などがある。アトバコンには皮疹、発熱、トランスアミナーゼ上昇などの副作用があり、ペンタミジンには悪心、下痢、頭痛、腎毒性、高カリウム血症、低血糖、低血圧、膵炎、不整脈などの副作用がある。ST合剤の副作用のうち発疹、悪心、嘔吐、発熱、便秘はアトバコンに比べて有意に多いことが分かっている2)。またペンタミジンの投与中止に至った有害事象の発現率はアトバコンに比べて有意に高いことが示唆されている3)。上記のペンタミジンとアトバコンとの比較試験において有効率、生存率は共に有意差は見られなかったが、この副作用の発現率の違いにより軽度~中等度のPCPに対してはペンタミジンよりもアトバコンの方が推奨されている。
アトバコンは比較試験において有用性はST合剤には劣るものの、副作用のためにST合剤の投与を中止せざる得なくなったPCP患者にとって非常に重要な治療薬であると言える。
【参考文献】
1)UpToDate:Treatment and prevention of Pneumocystis pneumonia in non-HIV-infected patients 2014/9/9閲覧
2)Hughes W et al : Comparison of atovaquone(566C80) with trimethoprim-sulfamethoxazole totreat Pneumocystis carinii pneumonia in patients with AIDS. N Engl J Med 328 : 1521-1527.1993
3)Dohn MN, Weinberg WG, Torres RA, et al. Oral atovaquone compatred with intravenous pentamidine for Pneumocystis carinii pneumonia in patients with AIDS. Ann Intern Med 121 : 174-180,1994
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