献本御礼
帯には「ラディカルな医療論」とある。そうかもしれないが、ぼくには全然普通に見える、というわけでこっちもラディカルなのかもしれない。しかし、ラディカル・シンキングは思考の基本である。これくらいは深く考えてみるべきなのだ。途中で考えるのを投げ出してしまうから、スローガン的な言い分で話が止まってしまうのだ。
世界で一番長寿を獲得した日本だが、長寿の先にあるのはがんなどの病気の増加である。当たり前だ。それは問題先送りに過ぎないのではないか、というのが本書のスタートラインである。健康は大切な価値ではあるが、価値の全てではない。このシンプルで大切なことを人は忘れがちだし、医療者の多くは忘れてしまっている。長生きと健康の先にあるもの、長生きと健康に平行して存在する価値、そういうものに顧慮せずにどうして「患者中心の医療」などできるだろうか。
というわけで、(ぼくには)とても普通の本書だが、文章の切れ味は鋭い。思っていても、なかなかここまでズバリと言えないのは、名郷先生ほどぼくがデータを読み込んでいないせいである。
後れた医療界の中でも禁煙医療はその典型で、特に後れた領域であるといえる。禁煙をすれば健康になって幸せになれる。そういう超ナイーブな人たちが集団となって、社会のあちこちでいろいろな発言をしている。 66p
この発言に怒る前に、本書で示されているデータをまず読み込むべきだ。ラディカルに考えるということは、全ての前提を疑い、虚心坦懐にデータを読み込み、考えることなのだから。それが科学的営為なのだから。
高血圧は治療すべきなのか、乳がん検診は必要なのか、認知症早期発見に意味はあるのか、パピローマウイルスワクチンの副作用だけ見ていて、真のアウトカムはおざなりになっていないか、糖尿病患者の生活にあまりに乱暴に「禁欲」を強いていないか。
このへんは、真面目に真摯に医療、プライマリケアととりくんでいる医者たちにとっては周知のコントロバーシーだ。ディオバン以降、「データの捏造」という難問まで生じたので、問題はさらに厄介だ。しかし、今でも商業誌を見ると、上滑りするような新薬治療薬の宣伝でいっぱいである。真摯なプライマリケアと、そうした商業誌のカラフルな主張とのギャップは広がるばかりだ。
というわけで、たまにはこういう本を真面目に真摯にじっくりと読み込んでほしいと思う。リフレクティブに怒るのは、それからだ。
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