以下のような例をよく見ます。参考になれば幸いです。「そんなの常識、当然できている」みなさんには無用の長物です。
例えばエボラだと、何週間という長い入院期間が想定されます。宇宙服のようなPPEも使い捨てにしていると、すぐになくなります。高価な宇宙服を買ってすぐに品切れになるよりも、たくさん買い足しできるPPEのほうが現実的だったりします。これは北京の長いSARS対策で実感しました。患者が急変したりすると、1日10回以上もPPEを脱いだり着たりしなければいけませんよ。1日だけのPPE着用演習では案外そういうことは想定の外におかれがちです。
検体を感染症研究所に送るプロトコルができていても、「通常の血液検査」がどう扱われるかが未定のことがあります。間違っても病室に簡易のCBCキット等おいてはいけません。患者がせん妄を起こして暴れたりしたら一大事です。普通の血液検査が安全に行われていれば、普通にエボラの検体も安全に処理できるはずです。病院には感染性の病原体が満ちているのですから。
救急車から陰圧個室までのルートとか、「病原体」についての配慮はたいていできていますが、患者についての配慮はできているでしょうか。例えば、人工呼吸器は入るでしょうか。というか、確実に気管内挿管できる医師はどのくらいいるでしょうか。透析やCHDFは病室に入り、水は流せるでしょうか。全身管理のできる集中治療のプロはいるでしょうか。まさか、ICDが主治医をし、ICNが看護をすることになっている人身御供的な施設はないでしょうね。彼らにあるのは感染管理のエクスパティースであり(ま、ICDについては、それも怪しいこともあるけど)、そのエクスパティースはエボラの診療をさせませんよ。PPEを着用するスキルは、直接の診療とは無関係です。
患者は鬱状態になったり、せん妄を起こすことも予想されます。そういうときに治療できるでしょうか。精神科医が患者を見てくれる約束はできているでしょうか。エボラの患者はまずMRIには入れません。画像検査なしでも患者をマネジできる臨床推論力や身体診察能力はあるでしょうか。
病室に感染対策グッズのみおいていないでしょうか。患者にはテレビもネットも必要です。(おそらく部屋に入れない)家族とのコミュニケーションツールも必須です。別に何百万もかけて通話エキップメントを買う必要はありません。ネットがつながればSkypeすればよいのですから。でも、そういうところに対する配慮は絶対に必要です。
患者の個人情報を守る記者会見のマニュアルも必須です。新型インフルエンザの二の舞はごめんです。
北京ではSARS用に隔離ができるストレッチャーを用意しましたが、「あれは使えない」とすぐに悟り、一回も使いませんでした。運転手だけは隔絶する必要がありますが、あとは普通にPPEをつけて救急搬送がベストだと思います。患者搬送は、点滴を入れたり、場合によっては心臓マッサージをしながら行われます。「あの」ストレッチャーの中でそれが可能でしょうか。というか、搬送担当者はBSLや投薬能力があるでしょうか。
病院は患者を診るところであり、病原体を管理するところではありません。自分が患者になった立ち場になって想定問答をする必要があります。病原体のことばかり考えていると、上記のような必須項目が案外疎かになっているものです。
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