注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
黄色ブドウ球菌によるカテーテル関連血流感染症の治療
ブドウ球菌はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌と陽性の黄色ブドウ球菌に大別される。静脈カテーテル関連感染症の原因菌を示した米国の研究では、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌が31%と最も多く、次いで黄色ブドウ球菌20%と続き、皮膚常在菌であるブドウ球菌が全体のおよそ半数を占めた。
カテーテル関連血流感染症が疑われた場合、まず可能な限りカテーテルを抜去する。原因菌を同定するため、抗菌薬を投与する前に血液培養をとるのを忘れてはならないが、培養の結果を待ってから抗菌薬投与を始めるのでは心内膜炎をはじめとする全身性の感染症になる可能性が高く危険である。結果を待つ間は、エンピリカルな治療としてバンコマイシンを投与するのが基本となる。
黄色ブドウ球菌はペニシリナーゼ非産生黄色ブドウ球菌、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)に分けられる。このうちペニシリナーゼ非産生黄色ブドウ球菌は非常に稀である。またVRSAの検出もほとんどなく、検出された場合、同定方法の誤りであることが多い。VRSAの頻度が少ないことを考えると、バンコマイシンによるエンピリック治療は黄色ブドウ球菌に対してほぼ効果があると考えられる。しかしながら、原因菌が同定できた後はそれにふさわしい抗菌薬に切り替えるべきである。ペニシリナーゼ非産生黄色ブドウ球菌ならペニシリンGなどが有効であり、MSSAであればセファゾリンなど第1世代セファロスポリンが第1選択薬である。MRSAに対してはバンコマイシンを引き続き使用し、もしもVRSAであれば、バンコマイシンは無効なためリネゾイドなどを使用する。
抗菌薬は通常14日間投与するが、投与開始後3日経過しても血液培養が陰性化しない場合は合併症を伴う症例として4~6週間治療を行う。黄色ブドウ球菌が持続して血液中に存在しているということは、この菌の特徴である膿瘍形成を疑ってみるべきということである。従って心内膜炎、心外膜炎、肺膿瘍、関節炎、骨髄炎、化膿性筋炎などの検索を行う必要がある。またこのとき複数の部位に感染巣が存在する可能性のことも念頭においておきたい。黄色ブドウ球菌による菌血症の死亡率は20~40%であり、およそ25%は心内膜炎を合併している。このため特に心内膜炎を疑って経食道エコー検査を行うのは重要なことである。
参考文献;
Up to date: Robert Gaynes, Jeffrey D Band; Epidemiology, pathogenesis, and microbiology of intravascular catheter infections (May 2014)
レジデントのための感染症診療マニュアル第2版 青木眞
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