注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
いつ水痘帯状疱疹ウイルス髄膜炎を疑うか
○varicella zoster virus(VZV)髄膜炎とは、
VZV感染者はGuillain-Barre症候群、急性小脳失調をはじめ多数の神経合併症を有するが、その一つにウイルス性髄膜炎がある。
VZV髄膜炎の診断には、髄液のPCR法による検査が標準的な診断法とされており、VZV髄膜炎と診断された場合はacyclovir 15 mg/kg 8時間毎×10~14日にて治療を行う。
上記のように、VZV髄膜炎は治療可能な疾患であり、決して見逃してはならない。以下にどのような時にVZV髄膜炎を疑うかを記す。
○まず髄膜炎を分類して考える
髄膜炎は主に細菌性とウイルス性(その他真菌性、結核性など)に分けることができ、一般的に細菌性の方が重症になる場合が多く、至急に治療をする必要がある。よって、髄膜炎が起こっていると分かった時にその原因を解明することが非常に重要である。脳脊髄液を調べることによって、髄膜炎が細菌性、結核性、真菌性、ウイルス性のどれかであるかを予想することができる。脳脊髄液中の細胞数上昇(<500/μL)、リンパ球(50%以上)の存在、糖正常、タンパク軽度上昇(150<mg/dL)の組み合わせがあった場合、その患者はウイルス性髄膜炎であることを示唆する。ヘルペスウイルス群の髄膜炎の患者の髄液中の糖は、減少する場合がある。
○どのような症状見た時に、VZV髄膜炎を疑うか
VZV髄膜炎は高熱、頭痛、項部硬直、嘔気、嘔吐といった髄膜炎に共通する症状に加え、下半身を中心として自立神経〔尿閉、(仙髄神経根障害によるもので一般的にElsberg症候群という)〕、感覚神経、運動神経(筋力低下、対麻痺)の障害を認めることがある。VZV特有の皮疹を有する場合が多く、これがVZV髄膜炎を示唆する最大の手掛かりである。
※VZV特有の皮疹
水痘:皮疹が顔面や体幹に密集し、紅斑、丘疹、水疱、膿疱、痴皮に至る各段階の皮疹が混在する。
帯状疱疹:片側性の支配神経領域に一致した皮疹。皮疹は疼痛を伴う紅斑や丘疹に始まり、水痘に類似した経過をたどる。
〈VZV髄膜炎患者の臨床症状〉
上記のようにほとんどの患者が頭痛を訴えている。また、水痘帯状疱疹様の皮疹がない患者(免疫機能正常患者)でもVZV髄膜炎を発症することが分かる。この2つの報告以外にも、11名のVZV髄膜炎患者(免疫機能正常患者)の6名に水痘帯状疱疹様の皮疹が無かったという報告もある。つまり、VZV髄膜炎を疑う際に、水痘帯状疱疹様の皮疹は最大の手掛かりとなるが、水痘帯状疱疹様の皮疹がなかったからといって、VZV髄膜炎をrule outしてはならない。
〈参考文献〉
1)Echevarría JM Detection of varicella-zoster virus-specific DNA sequences in cerebrospinal fluid from patients with acute aseptic meningitis and no cutaneous lesions.J Med Virol. (1994) Aug;43(4):331-5.
2)Ugo K. Ihekwaba, Clinical Features of Viral Meningitis in Adults. Clinical Infectious Diseases (2008); 47:783–9
3)Juan Carlos Lozano Becerra, Infection of the central nervous system caused by varicella zoster virus reactivation International Journal of Infectious Diseases 17 (2013) e529–e534
4) 青木真 レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版:2007 医学書院
5) 社団法人日本感染症学会 感染症専門医テキスト 第Ⅰ部 解説編:2011南江堂
6) Frederick S. Southwick 感染症診療スタンダードマニュアル 第2版:2011羊土社
7) Up To Date 『Clinical manifestations of varicella-zoster virus infection』
8) Up To Date 『Patient information: Viral meningitis (The Basics)』
9) Up To Date 『Aseptic meningitis in adults』
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