シリーズ 外科医のための感染症 39. 救急篇 熱傷、外傷患者の感染症予防と治療
多くの救急疾患についてはすでに触れました。ここでは、「これぞ救急」という救急プロパー領域の中から、とくに感染症のリスクが高い熱傷、外傷について説明します。
皮膚は人間最大の免疫メカニズムの一つです。そのメカニズムが破綻するのが熱傷と外傷ですから、当然感染症のリスクは高まります。
問題は、すでに何度も申し上げているように、「そこに感染症のリスクがある」ということと、「それを抗菌薬で払拭できる」は同義語ではないってことです。
熱傷があるだけ、で予防的抗菌薬は不要です。熱傷診療ガイドライン(日本熱傷学会)でも抗菌薬の予防的使用については「望ましくない」(B)とされています(http://www.jsbi-burn.org/jsbi13.html)。コクランのレビューでも、予防的抗菌薬の効果ははっきり示されていません(Barajas-Nava LA et al. Antibiotic prophylaxis for preventing burn wound infection. Cochrane Database Syst Rev. 2013;6:CD008738)。なお、このレビューでは、ゲーベンクリーム(スルファジアジン銀)の使用は入院期間を「延長させてしまう」という結果が出ています。気道熱傷がある患者でも予防的抗菌薬は予後に影響を与えないようです(Liodaki E et al. Prophylactic antibiotic therapy after inhalation injury. Burns. 2014 Mar 11)。
局所に炎症所見がある「だけ」では全身抗菌薬の適応にはなりません。局所の対症療法で十分です。
全身抗菌薬が必要なのは、「全身」に症状があるときです。発熱、頻脈、頻呼吸、血圧低下や血液検査の異常など、全身感染症を疑ったら、しかるべくワークアップして、治療します。
ワークアップは基本的なものを行います。血液培養2セット、、たとえ熱傷があって採血が困難であってもコンタミがあると大変ですから、なんとか頑張って採ってください。尿培養や喀痰培養も重要です。熱傷患者は創部関連の敗血症が多いですが、肺炎、尿路感染、カテ感染も同様に多いです。
熱傷感染では、創部の定量培養を行い、菌量が10の5乗以上であれば有意にとる、というプラクティスもありますが、岩田はあまり一般的に用いておりません。
治療は、原因としてもっとも多いブドウ球菌と緑膿菌をカバーすべく、バンコマイシン、セフタジジム(モダシン)などを使い、培養結果を見てde-escalationというパターンが多いです。局所の洗浄や壊死組織のデブリドマンなども当然必要です。真菌血症などが合併したら、抗真菌薬も追加します。
外傷後についても、ルーチンでは予防的抗菌薬は必要ありません。ただし、汚染された外傷、開放骨折、動物咬傷などでは予防的抗菌薬が推奨されます。開放骨折ではセファレキシン(ケフレックス)などの1世代セファロスポリンが、動物咬傷ではオグサワ(アモキシシリン+アモキシシリン・クラブラン酸)などが推奨されます。まあ、このへんは研究もあまり多くない領域で、迷った場合には感染症屋に相談してください。
それよりも破傷風予防のための、破傷風トキソイド(ハトキ)と破傷風免疫グロブリンの投与が大事です。汚い創の場合は5年以内にハトキを打っていなければ、ハトキと免疫グロブリンを、きれいな創の場合は10年以内にハトキを打っていなければハトキだけを打ちます。高齢者で三種混合ワクチンを幼少時に受けていない場合も、トキソイドや免疫グロブリンの適応があります。よく分かんなかったら、感染症屋を呼んでください。
それから脾破裂や脾摘があった場合には、13価の結合型肺炎球菌ワクチン(プレベナー)を1回接種し、8週間待って23価の肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス)を接種します。もし5年以上前にニューモバックス接種を受けていたら、やはり同様に13価のプレベナー、8週間待って23価のニューモバックスを打ちます。5年以内だったら、1回だけ13価のプレベナーを接種します。その後は5年ごとに23価のニューモバックスが推奨されます。なお、5歳未満の場合は連日の抗菌薬予防投与も推奨されます。このへんは、最近予防接種の選択肢が増えた分、ややこしくなったので、ぜひ感染症屋にご相談ください。
まとめ
・熱傷にルーチンの予防的抗菌薬は必要ない。
・全身感染症を疑ったら、適切な培養をとって治療
・外傷では破傷風予防が大事。
・脾摘患者では肺炎球菌の予防を。最近ややこしくなったので、迷ったら感染症屋コール!
文献
Gauglitz GG, and Shahrokhi S. Clinical manifestations, diagnosis, and treatment of burn wound sepsis. UpToDate. last updated Oct 17, 2013.
Lane JC et al. Current Concepts of Prophylactic Antibiotics in Trauma: A Review. Open Orthop J. 2012 Nov 30;6:511–7.
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