シリーズ 外科医のための感染症 コラム 感染症屋は皮膚科医が頼り
感染症屋はスタンド・アローンでやっていけない、弱い存在です。心内膜炎では心臓血管外科の先生に助けてもらい、骨髄炎では整形外科医の先生に助けてもらい、放射線科、病理診断科、薬剤部、微生物検査室、果ては保健所など行政に至るまで、あらゆる医療リソースの助けを借りなければ生きてはいけません。
皮膚科の先生にも多大な支援を受けています。壊死性筋膜炎の筋膜ドレナージや、皮膚生検といった手技ももちろんですが、とくに診断面ではとても助けられています。
なんといっても皮膚病変は、分かる人が見てなんぼ、ですからね。皮膚科の先生が皮膚を見るそのやり方は、我々素人が付け焼き刃な知識やわずかな経験で見るそれとは、ぜんっぜん違います。たぶん、見ている世界そのものが違うのだろうなっていうくらい違います。
これまでも、結節性紅斑だと思ったら実は結節性多発動脈炎とか、DIHS(drug induced hypersensitivity syndrome)だと思ったら別のタイプの薬疹だったとか、いろいろ教えていただいた経験がたくさんあります。逆に皮膚科の先生に「これは○○だね」と言われて、「いやいや、違うでしょ」なんて反駁できる医者は、なかなかいないですよね。それくらい、皮膚科医の皮膚所見の見立てくらい、他の医者を圧倒する説得力のあるものは、そうそうありません。
で、皮膚科の先生のレクチャーはよく拝聴して勉強させていただくのですが、とくにすごいなと思ったのは、ある皮膚科部長のプレゼンでした。皮膚科のプレゼンって怒濤の写真集で、何百枚ものスライドがどんどん出てきますよね。その先生のも古いドラム式のスライドパラパラのレクチャーだったのですが、何がびっくりしたって、「これはぼくが○○と思って誤診した症例です」みたいな症例をどんどん紹介してくださったことでした。ひえ〜、こんな名医でも誤診するんや。ていうか、それを惜しげもなく研修医たちに白状しちゃうなんて、、、
でも、その先生の普段の鬼神っぷりをよく知っているぼくらにしてみると、その誤診例の開陳は、ある意味人間としての「器の大きさ」を示すものでした。やっぱり偉い人は本当に偉いですね。ちなみにこのレクチャー、もう3回くらい聞きましたが、未だに同じ写真を見ても正しい診断名が出てきません、、、というわけで岩田のような非皮膚科医の無力っぷりもよく実感できます。
感染症屋はスタンド・アローンではやっていけない無力な存在ですが、人間とは本来無力な存在なのだ、という認識をしっかりできる点ではありがたい専門領域です。これからも自分たちの知っているところと知らないところの境界線をなるたけきちんと引いて、自分たちの知っているところでは最大限の能力を発揮し、そうでないところでは他者の言葉を聞き、助けを借りる、という態度を取り続けていきたいなあ、と思います。
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