シリーズ 外科医のための感染症 38. 皮膚科篇 皮膚軟部組織感染症診療の基本
壊死性筋膜炎などは他のところでやったので、今回は基本的な皮膚軟部組織感染症(skin and soft tissue infections, SSTI)について。丹毒とか蜂窩織炎など全部ここにひっくるめてご説明します。
といっても、丹毒と蜂窩織炎の区別とか、せつ(furuncle)とよう(carbuncle)の区別みたいなのは、皮膚科の先生には釈迦に説法なので、全部割愛です。
大事なポイントは二つ。
1. 小規模なSSTIは抗菌薬なしでも治る。特に小規模な皮下膿瘍などは切開排膿だけで十分。
2. 1世代セフェムやオグサワを使うのが基本。キノロンや3世代セフェム、カルバペネムを使うのはよくない。
まあ、こんだけです。逆に言えば、この二つを強調するのは、皮膚科領域においてスーパーな能力を発揮している先生ですら、案外守られていない原則だからです。
SSTIの原因菌の多くは連鎖球菌やブドウ球菌といったグラム陽性菌です。よって、グラム陽性菌を殺すための抗菌薬を使用します。その代表格が、経口薬であれば1世代のセファロスポリン、セファレキシン(ケフレックス)です。
しかし、多くのSSTIではグラム陰性菌に特化し、しかもバイオアベイラビリティが悪い3世代セフェムが使われています。フロモックス、メイアクト、セフゾン、トミロン、バナンといった感じ。医学・薬理学的根拠があるわけではありません。現場の経験値はあるかもしれませんが、なにしろ小規模なSSTIは抗菌薬なしでも治ってしまいますから、「間違った根拠を与える経験値」です。かぜに抗菌薬使って、患者が治って、よかった♡、と同じですね。
2014年のIDSA(アメリカ感染症学会)ガイドラインが推奨するSSTIの経口抗菌薬は、セファレキシン、(日本にはない)dicloxacillin、エリスロマイシン、クリンダマイシン、アモキシシリン・クラブラン酸、ST合剤、ミノサイクリンなどです。「ここは日本だ、アメリカじゃない」はここでは通用しません。
点滴薬であれば、セファゾリンなどが、、、MRSAが原因であればバンコマイシン、リネゾリド、ダプトマイシンなどが選択肢になります。
ところで、ミノマイシン(ミノサイクリン)は市中獲得型MRSA(CA-MRSA)にも活性が高いため、しばしば使います。点滴薬もありますし。逆に、ミノマイシンを乱用しないよう、リケッチア(ツツガムシ含む)などには「あえて」ドキシサイクリンを推奨しています。
Vibrio vulnificusやエアロモナスなど、グラム陰性菌がSSTIを起こすこともあるつっちゃあります。しかし、「例外事項を一般化しない」というのは大事な知的原則ですし、重症感染症のV. vulnificusに吸収の悪い経口3世代セフェムを出すのは命取りですから、どっちにしても上手い選択肢とは言えません。セフトリアキソンなど、点滴3世代セフェムを大量に使うのが肝心です。あと、壊死性筋膜炎などは別扱いです(前述)。
蜂窩織炎の治療期間や抗菌薬の必要量は、そのSSTIの規模の大きさに依存します。抗菌薬なしでも治っちゃうレベルから、ゲンタシン軟膏でOKなレベル、経口薬でいけるレベル、点滴抗菌薬を最大量必要とするレベル。治療期間も数日から、数週間までまちまちです。
時々見るのが、「うっ滞性皮膚炎」を感染症と間違えるケース。慢性の下腿浮腫がある患者さんでは、非感染性の下腿の炎症が起きています。全身状態がよい慢性の経過なので、問診でそうと分かります。治療は浮腫を取り除いたり、場合によっては形成外科の先生に頼んでリンパ浮腫の外科的治療をお願いします。こういう方は感染症も(うっ滞性皮膚炎の上に)起こしやすいので、注意が必要です。無駄な抗菌薬を非感染性の炎症に使っていると、いざ感染症が起きた時に治療薬のオプションが限定されてしまいます。
患肢の挙上も大切です。これをやるだけで、腫れがすっとよくなることはしばしば経験します。セファゾリン、ー>よくならないー>バンコマイシンやメロペン、、、ではなく、まずは患肢の挙上、セファゾリン量の最適化、、、でよくなるケースは多いのです。抗菌力そのものはバンコマイシンってとても弱いですし。
まとめ
・SSTIは原則グラム陽性菌を
・抗菌薬不要なケースもある。
・経口3世代セフェムは使わない
・うっ滞性皮膚炎は抗菌薬で治療しない
・患肢挙上なども大事。
文献
Stevens DL et al. Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Skin and Soft Tissue Infections: 2014 Update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2014 Jun 18;ciu296.
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