注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
BSL 感染症内科レポート
<熱帯熱マラリアの治療薬>
日本で用いられる熱帯熱マラリアの治療薬とその特徴は以下の通りである。
●アーテミシニン誘導体(経口)(アーテメーターやアーテスネート)
…脂肪を含んだ食事とともに内服
他剤(ルメファントリン・メフロキンなど)と併用
*アーテメーター・ルメファントリン合剤:リアメット
●アーテミシニン誘導体(座薬)
●アトバコン-プログアニル(経口)
…食事・乳製品とともに内服
アトバコン単剤で用いると容易に耐性を獲得するので注意
●キニーネ(経口・静注)
…主な副作用:キニーネ中毒(耳鳴り・高音性難聴・嘔気など)、低血糖、不整脈
キニーネ経口薬は単剤では使用されず、ドキシサイクリンやクリンダマイシン(妊婦・幼児の場合)と併用
●メフロキン(経口)
…主な副作用:めまい・頭痛・嘔気・腹部膨満感
痙攣性疾患・精神疾患患者には禁忌
タイ・カンボジア国境地帯で耐性が報告されており、この地域での感染が疑われる患者には投与しない
●クロロキン(経口)
…主な副作用:視覚障害(クロロキン網膜症)
アフリカ諸国・南米北部・東南アジアなどでクロロキン耐性マラリアが報告されている
これらのうち、キニーネとクロロキンは妊婦で安全性が確かめられている。また、患者が予防内服を行ってい
た場合、治療薬投与の際は予防に用いた薬剤以外を使用するべきである。
<合併症のない熱帯熱マラリア>
アーテミシニン併用療法(ACTs)としてリアメットの使用が最も推奨されている。アーテミシニン誘導体はマラリア生活環の全ての発育段階で効果的であり、原虫消失時間や発熱消失時間も他剤より優れている。これ以外にはアトバコン-プログアニル、キニーネ経口薬、メフロキンも上記に示した特徴を考慮して使用される。
<重症熱帯熱マラリア>
重症熱帯熱マラリアとは急性マラリアに脳症・呼吸障害・代謝性アシドーシス・循環虚脱・肺水腫・ARDS・腎不全・重症貧血・低血糖・DICなどが合併症として加わったものである。キニーネ静注薬やアーテスネート座薬が有効であるが、後者はキニーネ静注薬が使用しにくい場合・キニーネ静注薬と併用する場合・重症熱帯熱マラリアではないが経口薬の使用が難しい場合に用いられる。原虫寄生率が1%以下に減少し臨床症状が改善されれば、経口投与が可能な場合、これらの薬剤はいずれかの経口薬に変更する。このとき、キニーネは投与方法に関わらず投与期間を合計7日間までとし、アーテスネート座薬の場合は経口薬に変更した後、経口薬を7日間投与する。
【参考文献】・Manson’s tropical diseases twenty-first edition ・Up to date:Treatment of uncomplicated falciparum malaria
・The travel and tropical medicine manual Treatment of severe falciparum malaria
・感染症診療スタンダードマニュアル 第2版 ・熱帯病治療薬研究班 寄生虫症薬物治療の手引き
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