注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
HIV治療薬について
抗レトロウイルス薬の多剤併用療法(ART)はHIV感染症治療の基本である。ARTよって、HIV感染患者のAIDS指標疾患の罹患率は大幅に減少し、患者の予後やQOLも改善されたが、副作用、薬物相互作用、アドヒアランス、薬剤耐性の出現など多くの課題が残っており、いまだ開発途中の段階である。今回は数多く存在する抗レトロウイルス薬の中から、現在の薬物選択のスタンダードとその副作用を示す。
●薬物の種類と作用機序
現在20以上の抗レトロウイルス薬が承認されており、それらは、核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)、非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)、プロテアーゼ阻害薬(PI)、インテグラーゼ阻害薬(INSTI)、CCR5阻害薬、融合阻害薬(FI)の6つに分類される。それぞれの作用機序を下に示す。
・NRTI:逆転写によるDNA側鎖の伸長をストップさせ、ウイルスDNAの宿主DNAへの取り込みを阻害
・NNRTI:逆転写酵素に結合し立体構造を変えることで活性を阻害
・PI:プロテアーゼ(プロウイルスから産生された蛋白前駆体を適切な部分で切断し、ウイルスを成熟粒子とする酵素)を阻害
・INSTI:インテグラーゼ(逆転写後のプロウイルスDNAをヒト細胞遺伝子に取り込ませる酵素)を阻害
・CCR5阻害薬:ケモカイン受容体のうちのひとつ、CCR5を阻害し、ウイルスの侵入をブロック
・FI:HIV膜蛋白、gp120とgp41の立体構造の変化による細胞膜の融合を阻害 ウイルス蛋白の侵入を阻害
●具体的な薬物と副作用
基本的に初期のARTではkeydrug1剤(NNRTIかPIどちらか)とbackbone2剤(NRTI) の組み合わせを用いる。HIV感染症治療研究会の「治療の手引き」第17版によると、現在日本ではHIVに対する初回治療には9種の組合せが推奨されている(表参照)。それぞれの副作用を下に示す。
base |
keydrug |
backbone |
NNRTI base |
EFV |
+ABC/3TC +TDF/FTC |
PI base |
ATV/r |
+ABC/3TC +TDF/FTC |
DRV/r |
+ABC/3TC +TDF/FTC |
|
INSTI base |
RAL |
+ABC/3TC +TDF/FTC |
EVG/COBI/ |
/TDF/FTC |
EFV:中枢神経系の異常、発疹、脂質異常症
ATV/r:皮疹、可逆性間接ビリルビン血症
とそれに伴う黄疸、腎結石、胆結石
DRV/r:重症の皮疹、TEN
RAL:横紋筋融解症、全身過敏症
TDF:長期投与で腎障害と骨密度減少
ABC:過敏症→HLA-B*5701の存在
心血管系疾患のリスク
EVG/COBI/TDF/FTCはATV/r+TDF/FTCに並ぶ高い抗ウイルス効果と長期安全性が確認されたため、DHHSのガイドラインに新しく追加された。
HIV感染症は完治しない病気として世界的に認識されているが、いつかHIVを完全に殺菌でき、かつ副作用の少ない革新的な新薬が登場することを期待しつつ、今後の研究の動向を見守りたい。
EFV:エファビレンツ TDF:テノホビル FTC:エムトリシタビン (参考) ・岩田健太郎(2011) 「抗HIV/エイズ薬の考え方、使い方、そして飲み方」 中外医学社
ATV/r:リトナビルでboostされたアタザナビル ・John G.Bartlett,et al(2012) Medical Management of HIV Infection
DRV/r:リトナビルでboostされたダルナビル Johns Hopkins Univerdity School of Medicine
RAL:ラルテグラビル ABC:アバカビル ・HP: http://www.hivjp.org/ 2014/04/17アクセス
3TC:ラミブジン EVG:イルビテグラビル COBI:コビシスタット ・AIDS info HP:http://www.aidsinfo.nih.gov 2014/4/17アクセス
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