注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
呼吸困難感を来す疾患について
はじめに
呼吸困難の原因疾患は心疾患、肺疾患、貧血が多いがそのほか神経疾患や筋疾患など様々な原因によっても引き起こされることがある。また救急外来を受診する患者の主訴の中でも比較多いものであり、急性冠症候群、心不全、心タンポナーデ、喉頭閉塞、気管支喘息の大発作、緊張性気胸、肺塞栓、アナフィラキシーショックなどいくつかの致死的疾患も含むため重要な症候である。以下でそれらの一般的な鑑別方法を述べる。
問診
呼吸困難の病歴をとる際にはその不快感の質、また痛みを伴う場合はその質、程度を問うことが重要である。例えば胸が締め付けられる感覚は喘息や心筋虚血で特徴的であるし、呼吸に努力を要する感覚は気道閉塞や神経筋疾患で起こりうる。また空気が足りない感覚は肺塞栓やうっ血性心不全に伴い、深い息が出来ない症状はCOPDや喘息、肺繊維症などで感じられる。他には体位や持続時間なども重要である。起座呼吸と夜間呼吸困難はうっ血性心不全を示唆する。急性の呼吸困難は心筋虚血や気管支攣縮、肺塞栓の可能性が高く、慢性持続性ならばCOPDや間質性肺疾患に典型的である。気胸や心タンポナーデの可能性があるため外傷についても尋ねる。また現病歴以外にも冠動脈、心血管疾患や気管支喘息の既往、肺塞栓を想定し最近入院などで長期臥床することがあったか、アナフィラキシーショックを考え既知のアレルゲンに接触したかどうか聞くことも重要である。心因性に呼吸苦が引き起こされることもあるため、精神状態についても聞いておく必要がある。
身体所見
発声に苦労していたり短く断片的で、喘鳴のある場合は上気道が閉塞している可能性が高い。喉頭蓋炎では声がこもっていたり流涎、舌骨甲状軟骨間の圧痛があることがある。緊張性気胸では頸部に皮下気腫を認めることがある。頸静脈怒張は、心タンポナーデの際のベックの三徴の一部である。打診上濁音は胸水を示唆する。心音でⅢ音、Ⅳ音を聴取する場合急性冠症候群を疑う。弁膜症を疑い心雑音にも注意する。喘鳴は気管支喘息、COPDだけでなく心不全でも聴取されるので他の所見での鑑別が重要となる。片側の下肢腫脹がある場合には深部静脈血栓症の可能性を考える。確定診断につながる典型的な随伴症状を伴う疾患も存在する。例えば心筋虚血には胸骨下の激しい痛み、上気道感染であれば熱、咳、痰。アナフィラキシーショックの場合は90%で皮膚紅斑がでるとされる。しかし、肺塞栓や気胸などの場合呼吸苦のみが唯一の訴えであり、身体所見でもあまり異常が見つからないこともまれではない。そういった場合は既往歴を検索したり上記のような致死的な疾患が無いかを調べる。
検査
胸部X線検査では肺容量を評価し過膨張、低肺容量でないか確かめる。肺野では間質性疾患や肺気腫の所見がないか検討する。心陰影の拡大は拡張型心筋症や弁膜疾患を示唆する。肺塞栓があれば肺動脈の急激な狭窄が見受けられることもある。心電図でST上昇があれば心筋梗塞を強く疑うことができる。血液検査では貧血の有無を確認し、またDダイマーや心筋マーカーの測定を行うことも有用である。慢性かつ重症の心不全においては、脳ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が上昇しており、診断のマーカーとなりうる。心エコーによって弁膜症や心タンポナーデが診断出来る。肺塞栓を強く疑うときには直接的評価のためには造影CTが用いられる。
まとめ
本症状の原因はさまざまであり緊急時の確定診断は困難であるが、以上のような問診、検査などを用いて致死的な疾患を見逃さないようにすることが重要である。
参考文献
1) Harrison’s Manual of Medicine -17th Edition
2) Sympton to diagnosis
3) Azeemuddin Ahmed, Mark A Graber Evaluation of the adult with dyspnea in the emergency department
4) Richard M Schwartzstein et al. Approach to the patient with dyspnea
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