注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
ナッツの摂取が体に与える影響について
ナッツは様々な栄養素が豊富に含まれる食品である。植物性蛋白質、ビタミンE,B1,B2、ナイアシン、葉酸、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン、鉄、亜鉛、銅、食物繊維、不飽和脂肪酸などがバランスよく含まれ、健康効果が近年マスコミでも注目されている。ナッツを食べることで血中コレステロール値や血圧が下がるなど健康によい影響を与えるという可能性については、20年以上前から議論されてきた(1)。しかしそういった可能性を示すスタディのほとんどは小規模で信頼性に乏しいというのが現状であった。
2013年11月のNew England Journal of Medicineに、1980年から2010年までに118962人を対象としたある大規模前向きコホート試験に関するスタディが発表された(2)。そのスタディはある二つの団体が1980年代から30年間に渡り2〜4年ごとに行った食生活に関するアンケートを基にしており、被験者たちをナッツを食べる頻度によって「全く食べない」から「週に7回以上食べる」までの6段階に分類し、全死因死亡率を比較した。その結果、ナッツを頻繁に食べる人ほど全死因死亡率がより低いという結果を示した。統計的に、ナッツの摂取量が多い人ほどBMIが低く、喫煙者の割合が少なく、身体活動性が高く、マルチビタミンサプリメントを摂る人が多く、果物や野菜を摂る量が多い傾向にあることがわかったが、そういった交絡因子を切り離してもなおナッツの摂取量と死亡率との負の相関関係は有意なものであった。またICD8又は9を用いて死因分類を大きく9つに大別し比較すると、癌や心疾患、呼吸器疾患による死亡率が低いことが示された。その中でも特筆すべきなのは、心疾患による死亡率が29%も低下したことである。
この研究は相関関係を示したのみであり必ずしも因果関係を示したわけではないが、前向きかつ12万人という大規模なスタディであり、30年間という長期にわたって細かくフォローしていることから、ナッツの摂取が健康によい影響を与えるというこれまでの観察試験および臨床試験のデータに一定の信憑性を与えるものと考える。その他にこのスタディの欠点としては、ナッツの摂取量はあくまで自己申告であるため多少の誤差は避けられないという点、またナッツをどのような状態で摂取したかは推定できず、調理法による死亡率への影響は不明であるという点などが挙げられる。しかし研究対象としては非常に興味深く、今後さらに無作為化比較試験が行われ今回の結果が裏付けられていくことが期待される。
欧米諸国ではナッツ類の一人当たり消費量は9~25g/dayであるのに対し、日本では5.0g/dayとかなり少ない(3)。日本ではナッツは主におつまみとしてしか食べられていないが、例えば地中海沿岸部などではナッツは頻繁に料理に利用される食材であり、その地方に住む人は心血管イベントを発症する確率が低いと言われている。ナッツの摂取は心血管リスクを持つ人にとってもそうでない人にとっても、副作用なく死亡率低下に寄与する有用な健康法となりうるので、日本でもおつまみとしてだけではなく積極的に料理に取り入れていくべきだと考える。
【参考文献】
- Effects of walnuts on serum lipid levels and blood pressure in normal men; N Engl J Med. 1993 Mar 4;328(9):603-7.
- Association of Nut Consumption with Total and Cause-Specific Mortality; N Engl J Med 2013; 369:2001-2011November 21, 2013
- FAO統計データベース(FAOSTAT)
- Primary Prevention of Cardiovascular Disease with a Mediterranean Diet; N Engl J Med 2013; 368:1279-1290April 4, 2013
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