注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート アナフィラキシーショックの治療と予防
<はじめに>
厚生労働省によると日本におけるアナフィラキシーショックの年間死亡者数は約50~60人で推移しており、原因別ではハチ毒や薬物の有害作用が多くを占める。アナフィラキシーショックの0.7〜2%が致死的であり、最初に症状が発現してから数分〜数時間以内に死に至るため、アナフィラキシーショックを診断し直ちに対応することが重要である。
蕁麻疹や血管浮腫などの皮膚症状 |
約90%, |
上気道血管浮腫や喘鳴などの呼吸器症状 |
約40〜60% |
吐気や腹痛などの消化器症状 |
約25〜30% |
意識喪失や眩暈などの心血管系症状 |
約30〜35% |
<アナフィラキシー反応とアナフィラキシーショック>
アナフィラキシー反応は多彩で、口内異常感、嚥下困難感、両手足末端のしびれ、悪心などが起こる。症状の出現頻度は表の通りとなっている(1)。重症のアナフィラキシー反応が起こった場合、全身性蕁麻疹,血管性浮腫などの皮膚症状に加えてチアノーゼをきたす気道症状(特に喘鳴、努力呼吸、陥没呼吸)や急性循環不全をきたしショックに陥る。ショックの5徴候(蒼白、虚脱、冷汗、脈拍触知不能、呼吸不全)に注意して観察することが重要である。ショックをきたした場合は致死的になりえ、緊急性が高い。適切に治療されなかった場合、死に至る可能性は0.65~2%となる(2)。
<治療>
急性に発症する全身性蕁麻疹や血管浮腫に加えて呼吸困難、血圧低下、腹痛などが認められた場合、アナフィラキシーショックを疑う。原因となりうる医薬品の投与中にアナフィラキシーショックが疑われた場合は直ちに投与を中止する。アナフィラキシーショックを疑った場合、患者を仰臥位にして直ちに0.1%エピネフリン0.3〜0.5 mLを大腿部へ筋肉注射する。エピネフリン投与時の最高血中濃度に達するまでの時間は、筋注の場合8±2分であるのに対し皮下注では34±14分であるので、ショックをきたしている場合の投与経路は筋肉からが望ましい(3)。エピネフリンの効果判定は10 〜20分で行い、効果が不十分である場合は繰り返し投与を行う。エピネフリンのみの投与で十分な反応が得られない場合は、アナフィラキシー反応により血管透過性が亢進し循環血漿量が減少していることが考えられるため、生理食塩水やリンゲル液を5〜10 mL/kg急速輸液する。このような大量輸液を行う場合は副作用として肺水腫やアシドーシスに注意が必要となる。難治性の場合、エピネフリン持続静注を1〜4μg/分で開始する。また、β遮断薬を服用している患者ではエピネフリンのみの投与では奏功しないことがあり、この場合グルカゴンを1〜2mg静注し症状に合わせて5分ごとに投与を繰り返す(4)。上気道閉塞を疑う場合には、気管挿管や輪状甲状間膜切開を考慮する。補助的薬物治療として、蕁麻疹や血管性浮腫に対しては抗ヒスタミン薬であるジフェンヒドラミンを5〜10mg筋注または静注する。アナフィラキシーでは、数時間後に症状が再燃する遅発反応を呈するものが5〜20%存在するとされており、重症例は安易に帰宅させてはならず、24時間以上の経過観察を行うことが重要である。グルココルチコイドの静脈内投与は急性の症状に対しては無効であるが、気管支痙攣、低血圧、蕁麻疹の再発防止には有効である。
<予防>
アナフィラキシーショックは致死的となることがあるため、アナフィラキシー反応の既往があり再発の可能性がある場合は患者が自己注射可能な携帯型アドレナリンを処方することも重要である。皮膚試験によってアナフィラキシーショックを起こす可能性があるので、抗原が明らかである場合は皮膚試験を行わない。アナフィラキシーの危険性を十分認識するように患者教育を行い、患者自身だけではなく家族にも緊急時の対応方法を理解してもらう必要がある。また、医療者は全ての薬剤がアレルギー反応を起こしうることを心掛ける必要がある。明らかなアナフィラキシー反応の既往がある患者の場合、その旨をカルテに明記し同じ薬剤や同系統の薬剤の投与は避け、可能であれば他系統の薬剤の使用を検討するといった慎重な薬剤選択を行うことが求められる。特にアナフィラキシーショックの既往がある場合、同一薬剤の投与は1回目の反応よりもさらに重篤となることがあるため禁忌である。タキサン系に代表される抗がん薬などでは初回投薬時よりアナフィラキシーショックが生じることがあり、その予防には前投薬としてステロイド剤や抗ヒスタミン剤を用いる。また、プラチナ系薬剤は繰り返し投与を行うことで過敏性反応の頻度が増加する(5)。過敏性反応が生じた薬剤が治療のキードラッグとなっていて、再投与のメリットがリスクを上回ると判断した場合は、投与時にショックが起きても直ちに対応が可能となるようにアドレナリンや輸液,挿管セットなどの救急処置のための物品を準備しておく必要がある。
<まとめ>
アナフィラキシーショックを完全に予防することは難しいため、起きた場合に迅速な対応をとれるようにすることが重要となる。アナフィラキシーの治療においては、抗ヒスタミン薬やステロイドは即効性がなく、あくまでも補助的薬物という位置づけであり、最も重要なことは出来るだけ早くエピネフリンを正しい容量で筋注することである。
参考:ハリソン内科学 第4版,Up To Date
(1) J Allergy Clin Immunol 115;S483-S523, 2005
(2) Moneret-Vautrin DA, et al. Epidemiology of lifethreatening and lethal anaphylaxis: a review. Allergy 2005; 60:443-451
(3)Simons,F.E First-aid treatment of anaphylaxis to food: focus on epinephrine. J Allergy Clin Immunol. 2004 May;113(5):837-44.
(4) Pollack CV Jr Utility of glucagon in the emergency department. J Emerg Med. 1993 Mar-Apr;11(2):195-205..
(5) Maurie Markman, et al. Clinical Features of Hypersensitivity Reactions to Carboplatin; J Clin Oncol 17:1141~5,1999.
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。