一般的に、上の血圧が140mmHg、下の血圧が90mmHgを超える場合は「異常」な血圧とされます。ただ、高齢により血管が硬くなると、下の血圧はかえって下がってくることもあります。その場合、「上の血圧としたの血圧の違い」が大きいほど、まずいということになります。
高血圧の治療は、いきなり薬とは限りません。適切な運動、太り過ぎの人はダイエット、食べ過ぎの人もダイエット、塩分摂りすぎの場合は少し塩分を減らすと、血圧は下がってきます。
で、べらぼうに血圧が高い場合は血圧の薬を飲んだほうがよさそうです。多くのばあい、その薬は2種類かそれ以上になることが多いです。
が、問題は「軽い」高血圧です。外来では、こういう患者さんを診ることも多いです。
たとえば、上の血圧が140から149mmHgの軽い高血圧の患者さんを薬で治療すべきか。こういう「軽い」高血圧には効果がないことが、最近の研究で示唆されています(Cochrane Database Syst Rev 2012;(8):CD006742)。
で、「ほどほどに」血圧が高い、具体的には上の血圧が150から160mmHgの場合、には大きな研究がいくつかありまして、どれも薬の治療は効果的でした。
そのひとつ、MRCトライアル’Br Med J (Clin Res Ed). 1985;291(6488):97.)を紹介します。高血圧を薬で治療した場合としない場合では、薬を飲んだほうが、心臓病の発症率が低くなりました(ただしその差は1.5%)。また、男性の死亡率は下がりましたが、女性の死亡率はかえって上がってしまいました!全体では、死亡率の低下は認められなかったのでした。というわけで、「ほどほど」に血圧が高い場合の薬の利益はあるんだけど、「微妙」という感じです。
ということで、血圧がちょっとは高いんだけど、「べらぼうに」高いわけではない場合、薬を飲まない、という選択肢もあるかもしれません。前回示したように、高血圧の治療薬はいろいろ副作用があったりして良いことばかりとは限りません。薬の利益の大きさ、副作用の問題の大きさ、これを天秤にかけて考えることが大事です。そして、運動や食事療法だけで、薬を使わない、という選択肢があることはとても重要だと思います。
とはいえ!
では、血圧がそんなに高くなければ絶対に薬は必要ないかというとそうではありません。たとえば、上の血圧が140mmHg以下でそんなに高くない患者さんでも、糖尿病や心筋梗塞など、重要な持病がある患者さんだと、薬で治療すると心臓病にかかりにくく、死ににくくなると言われています(JAMA. 2011;305:913-922)。動脈硬化のある患者さんだと、前回紹介したACE阻害薬やARBを血圧が正常な患者さんに使っても心臓病や脳卒中が減るという研究もあります(Eur Heart J. 2012; 33:505-514)。
というわけで、「ちょっと血圧が高いだけ」の患者さんなら、薬なしという選択肢はありますが、糖尿病や心臓病など、持病が重なっていくと薬の価値はだんだん高まっていくようです。
近藤誠氏は「医者に殺されない47の心得」(アスコム)のなかで、現在高血圧治療を批判し「数値だけ見て、「病気」と信じてはいけない」と書きました。まったくそのとおりだと思います。見るべきは患者です。あなたが高血圧の薬を飲むべきか、はあなたがどういう患者かによって変わってくるのです。なんでもかんでもARB、というのがよくないのはそのためです。血圧の薬は製薬メーカーや医者の陰謀だ、というのもよくないのはそのためです。
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