痛みとはつらいものです。その痛みは本人にしか分かりません。なにしろ、「痛み計」なんてありませんからねえ。
つらい痛みを和らげてあげるのは医者の大事な仕事です。だから、痛み止めの薬を積極的に処方するのは、別に悪いことではないと思います。
ただし、過ぎたるは及ばざるが如し。何事も「やりすぎ」には要注意です。
とくに気になっているのが、ロキソニンとボルタレン。どちらも「非ステロイド系抗炎症薬」という種類に属する痛み止めです。熱冷ましにも使います。いろんな薬の形がありますが、ロキソニンは錠剤、ボルタレンは座薬のことが多いです。ちなみに、座薬というのはお尻から入れる薬のことで、決して「座って飲む薬」のことではありません。
前回のPPIの出しすぎも問題ですが、ロキソニン、ボルタレンの出しすぎも負けず劣らず問題です。ものすごい量使われています。「どうしてこの患者さんに?」と疑問に思う使い方も多いです。
ロキソニン、ボルタレンが「胃を荒らす」ことはよく知られており、お腹が痛くなる人は多いです。冗談みたいな実話ですが、「はらいた」の患者さんにロキソニンが処方されていてびっくりしたことがあります。多くの医者はこれを回避するため、ロキソニンにムコスタなどの胃薬を加えます。かくして、ますます薬は増え、日本人の胃薬服用率はどんどん上昇し、[心得6]でお話したあれやこれやの問題につながっていくのでした。
「胃を荒らす」副作用は胃薬の併用でなんとかなるかもしれませんが、ロキソニンやボルタレンは腎臓にも良くないことが知られています。ボルタレン座薬の後で腎機能が悪くなってしまう人、よく見ますねえ。
さらにさらに、ボルタレンなどを飲んでいると、心筋梗塞のリスクが増すことも最近の研究で分かってきました(Article first published online: 25 APR 2013)。心不全の人が飲むと死亡率も上がってしまうそうです(Arch Intern Med. 2009;169(2):141-149)。あちこち問題ですね。
ボルタレンは、インフルエンザに罹った子どもが飲むと、脳症の原因にもなると言われています(Acta Neurol Scand. 2007 Apr;115(4 Suppl):45-56)。小児科の先生はたいてい、この副作用をよくご存知ですから、子どもにボルタレン出す医者は最近では激減しました。
最初に書いたように、痛み治療は大切ですから、ロキソニンやボルタレンの存在そのものを否定はしません。が、こういう薬はどうしても必要なときに短期的に使うのが大事だと思います。漫然と長い間飲んでいると、胃に、腎臓に、そして心臓に悪影響を及ぼしかねません。要注意です。
実は、ロキソニンやボルタレンよりも安全に使える痛み止めがあります。アセトアミノフェン(カロナールなど)です。しかし、日本では伝統的にアセトアミノフェンの使用量が少なすぎたために、「どうも効かないなあ」と。医者にも患者さんにも評判が悪かったのでした。しかし、2011年、ようやくアセトアミノフェンも海外と同じ高容量が認められるようになりました(http://www.showayakuhinkako.co.jp/news_release/press_release110121.pdf)。ぼくも痛みの初期治療は、このアセトアミノフェンを1日1g以上使って患者さんの痛み治療を始めます。もちろん、インフルエンザの患者さんに使っても問題ありません。ロキソニンやボルタレンを使うのは、この高容量のアセトアミノフェンでもダメだった時の、「次の手」になります。
とはいえ!
このアセトアミノフェンも完全に安全な薬、というわけではありません。とくに、肝臓が悪い患者さんが飲むと肝臓がさらに悪くなってしまうことがあります。それと、無茶苦茶に大量に飲むと、致死的な中毒が起きることもあります。まあ、無茶苦茶に大量に飲むとどんな薬だって体にはよくないんですが。
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