高尿酸血症は、血清尿酸値7.0mg/dlを超える場合と定義される※1-3。これは、7.0mg/dlが体液中で溶解度を超える血清尿酸の濃度であることに由来する※2、3。米国のガイドラインでは、ランダム化比較試験(RCT)の知見が不足していることから、臨床症状のない高尿酸血症の薬物治療は推奨されていない※2。一方で、日本のガイドラインでは、臨床症状がなくとも血清尿酸値9.0mg/dl以上であれば薬物治療が推奨される※3。このような相違を踏まえ無症候性高尿酸血症の治療のメリットを検討したい。高尿酸血症が関連するとされる各疾患と総死亡について以下にまとめる。
<痛風>健常な米国人男性2046人を前向きに15年間観察した結果、痛風関節炎の5年間累積発症率は血清尿酸値6mg/dl未満で0.5%、6.0~6.9mg/dlで0.6%、7.0~7.9mg/dlで2.0%、8.0~8.9mg/dlで4.1%、9.0~9.9mg/dlで19.8%、10mg/dl以上で30.5%であった※4。無症候性高尿酸血症群を対象として尿酸値コントロールが痛風発症率に及ぼす影響を調べたRCTはない※3。
<腎障害>無症候性高尿酸血症を有する高軽度~中等度の慢性腎臓病(CKD)患者54人にアロプリノールを12ヶ月間投与するRCTの結果、アロプリノール投与群の16%で対照群の46%で腎機能の悪化が認められた※5。
<尿路結石><高血圧・心疾患><メタボリックシンドローム>高血圧・心疾患に関しては、コホート研究において血清尿酸値が独立した心血管系の危険因子と相関するかについて報告が相反する。その他の疾患に関しては、無症候性高尿酸血症群を観察対象としたコホート研究も、治療介入したRCTもない※3。
<悪性腫瘍><総死亡>悪性腫瘍との関連については1983~2007年に行われた前向きコホート研究11件の報告のうち男性では9件のうち4件で、女性では7件のうち3件で認められた※3。また、総死亡との関連については1985~2008年に行われた前向きコホート研究16件の報告のうち男性では13件のうち7件で、女性では8件のうち6件で認められた※3。
上述のように、腎障害に関してのみ小規模のRCTがあるが、無症候性高尿酸血症の治療を支持するエビデンスは乏しい。実際に、UpToDateでは無症候であれば血清尿酸値が男性で13mg/dl、女性で10mg/dlを越えてから薬物治療すること※1を、また、NEJMのreviewでは1年間に少なくとも2度の痛風発作を起こした人あるいは痛風結節を有する人を薬物治療の対象にすること※6をそれぞれ推奨している。一方で、尿酸値コントロールの第一選択薬であるアロプリノールには、最大5%の患者に副作用の皮膚症状が見られ※7、最大0.1%の頻度で薬剤性過敏症症候群(DIHS)が認められる※8。
高尿酸血症には様々な合併症が指摘されており、介入することでCKDの腎機能悪化のリスクを3分の1程度に下げることができる可能性はあるものの、痛風関節炎や尿路結石などの予防には信頼性の高いエビデンスはなく、悪性腫瘍と総死亡に関しては報告によって結果に隔たりがありコンセンサスは得られていないと言える。また、尿酸値コントロールにはDIHSのような重篤な副作用の懸念もある。日本では成人男性の26.2%が高尿酸血症を有すること※9からも、高尿酸血症に遭遇する機会は多いが、治療は不要な場合が多いと考える。
【参考文献】
※1 UpToDate “asymptomatic hyperuricemia”last updated: 4 9, 2013 (2013/6/10アクセス)
※2 Khanna D et al. (2012) 2012 American College of Rheumatology guidelines for management of gout. Arthritis Care Res (Hoboken). 64:1431-1461
※3 日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン作成委員会(2010)『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン-第2 版-』メディカルレビュー社
※4 Campion EW et al. (1987) Asymptomatic hyperuricemia. Risks and consequences in the normative aging study Am J Med. 82:421-426.
※5 Siu YP et al. (2006) Use of allopurinol in slowing the progression of renal disease through its ability to lower serum uric acid level. Am J Kidney Dis. 47:51-59
※6 Neogi T et al.(2011) Gout. N Engl J Med. 364:443-452.
※7 Robert SS (2012) Exanthematous Drug Eruptions. N Engl J Med. 366:2492-2501
※8 厚生労働省(2007)「重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬剤性過敏症症候群」http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1a09.pdf
※9 藤森新ほか(2006)「わが国の高尿酸血症・痛風は増え続けていない」痛風と核酸代謝 30:13-20
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