Kyoto Heart Studyが製薬会社との不適切な関係性の中で行われ、倫理的に問題だっただけでなく、そのデータも捏造された可能性が高いことはすでに指摘しました[心得13]。
さて、では専門家の集団、「学会」はこれをどう考えているのでしょう。
高血圧の専門家集団、日本高血圧学会は今回に「ディオバン事件」を受けて、次のような声明を出しています。
引用はじめ
「最近の報道と関連して高血圧治療について」
平成25年7月12日に新聞・テレビなどで京都府立医科大学において実施された臨床研究への疑惑が報道された際に、高血圧治療の内容に不安を抱かれている患者様がいらっしゃるという報道もございました。
高 血圧を放置すると脳卒中や心筋梗塞の発症リスクが増大します。また、降圧薬を内服して血圧を下げることで、脳卒中や心筋梗塞の発症リスクを減らすことがで きます。血圧を下げることが最も大事な点です。血圧を下げる治療法は様々なものがあり、個々の患者様の状態に応じて担当の先生が決定されています。
高血圧学会としては、今回の報道により、降圧治療の大切さに疑問を持ってしまい、治療を控える方が増えることがないように願っています。また、既に治療を受けておられる方については、担当の先生とご相談されて、治療を継続されることをお勧めします。
平成25年7月18日
日本高血圧学会
引用終わり(http://www.jpnsh.org/topics/280.html)
「ディオバン事件」で分かったのは、ディオバンは血圧を下げてくれるけど、脳卒中や心筋梗塞を対照群よりも減らしてくれなかった(減らすというデータは捏造だった)、でした。なので、「降圧薬を内服して血圧を下げることで、脳卒中や心筋梗塞の発症リスクを減らすことができます」は、非常に不誠実なコメントだとぼくは思います。
ていうか、このコメント、なんか、他人ごとっぽいコメントだと思いませんか。「ディオバン事件」をうけて、学会としての見解とか、意見とか、ないの?Kyoto Heart Studyのラスト・オーサー、松原弘明氏(元京都府立医大教授)は、日本高血圧学会の評議員でしょ(http://www.jpnsh.org/board_h.html)。
ぼくが高血圧学会員ならば、こう言いたい。
プロとして恥ずかしいです。誠に申し訳ございませな。高血圧学会は、高血圧のプロ集団なのにもかかわらず、Kyoto Heart Studyの捏造問題を早期に発見できず、予防もできませんでした。これを受けて、当学会は真相究明に全力をつくすことをお約束します。そして真相の全容は、必ず国民、いや、全世界の方々にご報告し、その改善策をお示しします。必ずや日本の高血圧治療を適正化し、地に堕ちた日本の臨床研究の信用を取り戻すため、全力を尽くします。
これくらい言わなきゃ、プロじゃないよ。プロじゃないなら、「普通の人になります」と脱プロ宣言して、KHS48でも作って、鴨川ぞいでゲリラライブでもやってたほうが、まだましです。
とはいえ!
いや、今日は、「とはいえ」ない。弁護の言葉を思いつきません。
以下は、僕の仮説と想像。
日本では臨床医学や臨床研究が非常に低く見られてきました。「ついでに」行なってきたのです。医学研究といえば、「基礎医学」の研究とほぼ同義だったのです。
「ついで」の研究なので、いい加減にやってもいいじゃないの、という甘さがあったのだと思います。今回、多くの医者が「なんであんなに簡単に見破られるような捏造の仕方をするの?」と驚いていました。データがあまりに不自然に揃っていて、普通に読めば「おかしい」と思うからです。
でも、多くの医者がその「あまりに稚拙な」捏造にころっと騙されていました。ある医者はノバルティスのMR(営業さん)に騙された!と激怒していましたが、シロウトならともかく、プロがこうも簡単に騙されるのは、どんなものでしょう。実際、ノバルティスもこの程度の稚拙な捏造で、日本の臨床医は騙せる、と思っていたのでしょう。「エビデンスできました」という一言を鵜呑みにして、まるで「冷やし中華一丁あがり」みたいにツルツル飲み込んでしまったのです。その具材は「偽物だらけ」「添加物だらけ」「農薬漬け」で、しかも非表示だったというわけ。
臨床研究は、患者の利益のために行います。そのデータが患者にどれくらい利益を与えるか、が「エビデンス」だからです。Kyoto Heart Studyの研究者たちの視線の先には、患者の、そして患者の利益というビジョンが、イメージが写っていたでしょうか。ぼくには甚だ疑問なのです。
そして、他の領域の専門家、他の学会も、今回の事件は他人ごとではないはずです。ちゃんと基本に立ち返り、患者を見て、患者の利益を見据えて、臨床医学を甘く見ないことが大事です。そうしないと、第二、第三のディオバン事件は必ず起きます。文部科学省の「規制」なんて、何の役にもたちません。ていうか、規制はたぶん、臨床試験を面倒くさくして、さらに患者の利益は遠ざかる皮肉な結果になるに決まっています。予言しときます。
この問題、クローズアップ現代でも明日取り上げるようですね。必見です。https://pid.nhk.or.jp/pid04/ProgramIntro/Show.do?pkey=110-20130731-22-34582
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