宇宙戦艦ヤマト2199というアニメがあって、好んで見ています。日本至上主義とか、戦争肯定主義とか、いろいろ文句も付けられそうなこの物語は、しかし何十年もファンの心を鷲掴みなわけで、とても魅力ある作品ですね。
2199は設定や技術をかなりいじって、旧作に比べるととてもリアルです。でもこれはまあ、「アニメ」「フィクション」なわけで、あまりそこにリアリティーを求めすぎてはいけません。ヤマトには弾が当たらない、少なくとも致命傷は負わないのに、ガミラス艦はどんどん撃沈されていく、、、冷静に見ると不自然なのですが、ヤマトに致命傷負わされてはこの話は終わってしまうので、そこは「芝居のウソ」なわけです。観る方も、騙されていると知りながら、楽しむのがたしなみです。
でも、ウソがお互いに了解されるのはあくまでフィクションの話。現実世界ではウソはまかり通りませんし、医療・医学の世界ではマジ、洒落になっていません。
ところが、医療・医学のまじで洒落になっていない世界ですら、ウソはまかり通っています。有名なのが、麻疹(はしか)ワクチンで自閉症になる、という研究発表。これはカルテ改ざんのデタラメ論文でした(CMAJ. 2010 Mar 9;182(4):E199-200.)。ワクチンが自閉症の原因陰謀説は世界中にまかり通っていますが、そういう妄想が捏造論文を産みだしたのでした。
で、現在、日本でも、ディオバンという高血圧の薬に関する不整疑惑が話題になっています。カルテのデータを捏造し、薬の(存在しない)効果を喧伝していたのですから、非常にたちが悪いです。
販売元のノバルティスや研究を行った京都府立医大は「ディオバンの血圧を下げる効果は本当です」と主張していますが、そもそも両者は「ディオバンは血圧を下げるだけでなく、脳卒中とか本当に大事なアウトカムを良くするんです」と主張していたわけですから、そういう言い訳をするおことそのものがアクドイ、みっともない、とぼくなんかは思います。
さて、ぼくが研究していたエラスポール。これはARDS(エーアールディーエスと読みます)という肺の病気の治療薬(ときに予防薬)です。ぼくはメタ分析という手法で、「この薬はARDSには効かない」と主張しました(Intern Med. 2010;49(22):2423-32.)。実は、その主張そのものはぱっとしないものでして、海外ではもう、エラスポールはARDSには効かず、むしろ患者には有害かも、という研究がなされていました(Crit Care Med. 2004 Aug;32(8):1695-702.)。ところが、「日本人は特殊だから、外国人とは違う」という理由で「日本でだけ」使われ続けていました。
日本人が他の国の人と違うところはあると思います。でも、日本人だけ他の「どの国の」人とも違っていて、しかも日本製の薬が日本人にだけドンピシャリで効くなんて、ちょっと都合よすぎません?弾の当たらないヤマトみたい。
ところがところが、ぼくの研究の後で、「そんなことはない、エラスポールは(日本人の)ARDSには効く、という新たな研究が発表されました(Pulmonary Pharmacology & Therapeutics 2011; 24: 549-554)。岩田の命運、万事休すか?
でもこの研究、おかしいんです。ふつう、比較試験というのは、エラスポールを使うグループと使わないグループを地ならしし、両者に差が出ないようにします。薬を使うグループが20代の若者で、使わないグループが90代の老人だったら、だれもその薬の効果を信用出来ないでしょ。さて、件の研究はそんな感じで、エラスポールを使わないグループのほうが年齢、症状などがきつく、「より重症」な患者だったのです。あとでデータを地ならししていますが、そもそもどうしてそういうへんてこな現象が起きたんでしょうね。偶然?まぐれ?それとも?
とはいえ!
日本人という人種の特殊性は、あるといえば、あります。そこを完全に無視してしまうのは、危険です。
例えば、ぼくが見ているエイズの領域なんか。日本人だけ薬の副作用が出にくかったり、あるいは薬の血中濃度が異様に高く出やすかったりする奇妙な現象が起きることがあります。
でも、こういうのはむしろ例外でして、一般的には薬の効果は何人でもそう大きく変わりありません。一般論と特殊論は区別して考えなくてはなりません。
もちろん、ネズミの実験結果を日本人(というか人間)にいきなり応用してしまうのはご法度ですよ。
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