注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
BSL感染症内科レポート
感染症を引き起こす寄生虫は、単細胞の原虫と、多細胞の寄生虫である蠕虫に分類できる。単細胞生物で、サイズが通常数10μmの原虫は肉眼では見つけられないので、「便に虫を見つけた」ケースでは、肉眼で観察できる蠕虫を考えればよい。蠕虫は、更に、その形態から線虫、吸虫、条虫の3つに分類される。線虫は、細長い左右対称の円筒状や糸状の線形動物である。吸虫は、扁形動物であり、吸盤の構造を持っている。条虫も扁形動物で、その形態は1個の頭節と数個の片節からなり、数センチからもっと長いものまでいる。
このように蠕虫も3つに分類はできるが、線虫と吸虫は便に出たとしても診断時には殆どの場合は虫卵として観察される。そして、その虫卵の特徴が診断に有用になる。そのため、「便に虫を見つけた」ケースでは、条虫症を考える。条虫症の中には、糞便中から片節を検出することで診断するものがある。例として挙げられるのは、無鉤条虫、有鉤条虫の成虫、裂頭条虫、瓜実条虫である。こういった患者では、糞便検査を行い、寄生虫自体を得ることが出来れば、条虫のその形態より確定診断が出来る。
また、主訴があるものの糞便検査で陰性だった場合や結果がでていない場合、糞便検査と別の寄生虫感染へのアプローチとして、寄生虫にまつわる情報を問診する。
条虫の感染は経口摂取によるので、牛や豚の生肉や魚の種類など食物摂取歴、イヌ・ネコなど動物との接触の情報を聴取し、寄生虫を考える。例えば、食物では、日本海裂頭条虫感染は日本近海産のマスやサケで、有鉤条虫は豚肉の生食、無鉤条虫は牛肉の生食で起こるので、患者に摂取歴があればそれぞれの条虫症を疑う。また、イヌやネコに着いたノミの経口での混入で瓜実条虫は感染するので、動物との接触歴があれば疑う。
糞便に出る寄生虫の感染症の多くは無症候性ではあるが、重症感染症(蠕虫の場合、数が多いこと、免疫抑制状態の患者にしばしばある)では身体症状が出る。特徴的な随伴症状からも疑うべき寄生虫感染を考える。例えば、便に虫が出て、慢性の腹痛と下利があれば、裂頭条虫は疑わしい。また、患者の皮下に虫が認められる症状を伴えば、有鉤条虫の幼虫寄生の有鉤嚢虫症が強く疑われる。
このように糞便結果陽性でない患者に対しては、問診でアプローチする。
「便に虫を見つけた」場合、片節や幼虫が糞便検査から検出されれば、それを以て診断とする。訴えはあるものの検出されない場合や結果の出ていない場合は、糞便検査に加えて、詳細な病歴の聴取を行い、臨床症状を確認することが診断に有用である。
(参考文献 Harrison’s Principles of Internal Medicine 18th / 図説人体寄生虫学改訂8版;南山堂)
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