半夏厚朴湯の起源は金匱要略にある。そもそも金匱要略とは、傷寒論とともに漢方の原点といわれている書物で、張仲景の著した「傷寒雑病論」のうち雑病の部分を25篇に編集し直し出版されたものである。その婦人雑病の章に咽に炙った肉片があるようなとき(咽中炙臠)に用いるとの記載がある。*1
半夏厚朴湯は半夏、茯苓、厚朴、蘇葉、生姜を含有しており、これは小半夏加茯苓湯に厚朴と蘇葉を加えたものとなっている。小半夏加茯苓湯は、体力中等度以上の人で妊娠嘔吐、その他諸病の嘔吐に用いられる漢方で、さらに嘔吐の他に胸腹部の膨満感や頸部・胸部の違和感を訴える場合には厚朴を加えていたと推測される。これで改善されない場合に芳香性のある蘇葉を追加したところ、大変効き目があったという経験から半夏厚朴湯が生まれたとされている。*2
生姜の薬効として、反経胃腸排水作用があるので、下痢や嘔吐を改善しながら結果的に経腎排水作用をもつことになる。半夏の薬効として嘔吐の改善作用があるので、これが生姜の経腎臓排水作用を増強する。厚朴の薬効は経胃腸排水反応を促進することによる胸腹部膨満感の改善作用であり、それに随伴する腹痛も改善する。茯苓の薬効は動悸や精神状態の不安、興奮状態の鎮静作用と、利尿作用がある。蘇葉の薬効は発汗、解毒、精神安定であり、また、みぞおちの辺りのつっかえを改善する効果もあるとされている。
以上の薬効を総合して考えると、この湯は生姜と半夏の経腎臓排水作用と、厚朴の経胃腸排水作用が相反しているように思えるが、全体的にみると経腎臓排水作用が優位になっており、結果として軽い利尿作用と、嘔吐改善作用、さらに、茯苓と蘇葉の精神安定作用、頸胸部の違和感改善作用を併せ持つ漢方であると考える。これを臨床においてどのような症例において処方できるか考察すると、主に三つの症状に分類できる。まず、消化器症状において、嘔気、腹部膨満感、心窩部のつまった感じ、食欲不振、つわりを訴える人に使えるだろう。次に、精神神経症状において、気分の憂鬱感、不安感、パニック(発汗、動悸)、不眠などの症状があるとき使えるだろう。最後に、頸胸部症状として、咽に何かつまった感じ(梅核気)、呼吸困難感、咳などの症状に使えるだろう。*3
実臨床においては、咽喉頭異常感症とその背景にある精神症状に対して処方されることが多いようだ。これは消化器症状や頸胸部症状が精神症状に関連しているからではないかと考える。
<参考文献>
*1入門金匱要略p.176 森由雄著 南山堂
*2新版漢方医学 p.339~340 日本漢方医学研究所
*3近代漢方医学総論p.281~304/各論p.246~248 遠田裕政著 医道の日本社
傷寒論の医学と薬物学 大川清、大川和子著
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。