これはすごい。ちょっと感動モノである。百戦錬磨なスーパーベテランが書いた本かと思ったらまだ7年目のドクターだというから2度驚きである。
医者が書く文章は牽強付会、夜郎自大なことが多く、「なんでも知ってる、なんでもできる」的な文章になりがちだ。自戒を込めて、そう思う。特に日本の教科書は検査も診断も治療も「こうなってます」という言い切り型の事が多い。大きな「成書」でも、「今日の〜」的マニュアルもその点は同じである。「できる」「こういうことになっている」という言い切り型の説明は、臨床医学に対して不誠実な態度だと思う。このことはすでにどっかで書いた。
しかし、本書にはそのような専門家チックな文章は微塵にもない。あるのは抑制の効いた文献的データと経験的思いとの行きつ戻りつな文章である。データの吟味も、音羽OBらしく徹底していて(良い意味で)ねちっこい。選んだトピックも実に臨床的なものばかりで、筆者がいかに臨床を真面目に取り扱っているかがよく分かる。
本書は呼吸困難感と呼吸苦の違い、、、みたいなところには拘泥せず、純粋にその評価を行おうと希求する。41P 経鼻酸素の羞恥心を軽減する方法を希求する(実に臨床的!) 39P。「臨床医は常に悩み続けるべき」38pと、実にかっこ良いセリフが出てくる。M. chelonaeはアオウミガメが語源という(そうなの、、)ウンチクも聞ける。歴史的な記載も多くて個人的には好感を持てる。鎮咳薬についての考察や、痰が取れない時のラングフルート(知りませんでした。勉強になりました)の項目も、とても臨床的だ。ステロイドや抗菌薬など、コントロバーシャルな問題についても誠実にデータととっくみあって議論しているし、それでいて「エビデンス」の一言で簡単に片付けていない。
呼吸器内科医も、そうでない内科医もみんな本書をよんで勉強するのが良いと思う。本書は素晴らしくクールな頭と熱いハートが同居した良書だと思う。クールに燃えることのできない内科医は、残念ながらわりと多くて、頭の方ばかり熱くなってしまうことが多いのだから。
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