1.
73歳男性が、4日間の咳、喀痰、発熱にて来院した。診察上発熱と頻脈を認め、血液検査では炎症反応高値、喀痰グラム染色ではグラム陽性双球菌が多数認め
られた。胸部レントゲンでは右下肺野に浸潤影を認め、胸部CTでやはり右下肺野にair
bronchogramを伴う浸潤影が確認された。直ちにエンピリック治療としてビアペネム点滴療法が開始された。
この診療には明らかな間違いが3つある。それを指摘し、その根拠を述べよ。
試験で大事なのは「問題をよく読むこと」「出題者の『意図』を察知すること」である。ここでは「明らかな」間違いを問うている。露骨に、臨床的にやってはいけないことを見つければよいのである。みなさん、わりとよくできていました。
解答
1.血液培養を取らずに抗菌薬をスタートしたこと(喀痰培養がない、という指摘もあったが、それもロジックとしては正解にした)。適切な培養がなければ、de-escalationは可能にならない。
2.レントゲンを取った「あとに」CTを撮ったこと。よくあるミステイク。CTの無駄撮り。
3.初期治療のビアペネム。市中肺炎に広域すぎる、という指摘は5年生でもできていた。医者になっても忘れないでね。それだけではない。JANISによると、日本の肺炎球菌は7%以上カルバペネムに耐性である(セフトリアキソンやペニシリンは「肺炎」にはほぼ100%感受性)。肺炎球菌性肺炎に対してカルバペネムを使うのは、too muchにしてかつtoo littleなのである。患者を助けたければ、こういうことをしてはいけない。
2.
ある患者(既往歴なしの成人)が外来にやってきて、免疫をアップさせるというスーパーメンエキンZ(仮名、一般名supermenekin)という特定保
健用食品(トクホ)のチラシを持ってきた(一瓶30粒5万円消費税別)。これを飲むのはどう思うかと主治医のあなたに聞く。あなたはこの食品について知ら
なかったので、PubMedでその効果を検索することにした。どのような論文を探せばこの薬の効果が分かるか。
ヒント。PICO (patients, intervention, comparison, outcome)に十分注意すること。
解答
supermenekinをPubMedのClinical Queriesで引いてどういう治療的論文があるかゴリゴリ調べるのもよい。supermenekin, randomized, controlled, trialとかmeta-analysisとかで上から順番に調べてもOK。PICOは
Patients: supermenekinを服用する既往歴のない成人
Comparison: 服用しない既往歴のない成人
Intervention:supermenekinの内服
Outcome: まだ不明。患者と相談して患者の思いを聞いても良いし、検索してから臨床試験の設定したアウトカムを患者に提示し、「風邪ひかなくなるそうですよ」とか「死ななくなるそうですよ」とか持ちかけても良い。患者が明確なアウトカムを自己設定するのは難しいから、最初はラックスで良い。ただし、「NK細胞の活性が上がります」とかいうサロゲートマーカー論文は全て排除すること。要するに、「免疫が上がる」と称している本屋の健康本コーナーの本は、読むに値しないのが99%ということです。
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